「フィクス・ユア・ハート、アンロック・ユア・マインド」ヒューゴの不思議な発明 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
フィクス・ユア・ハート、アンロック・ユア・マインド
話の流れにツッコミ所が多いという方々も大勢いるし、
それらの指摘に頷く部分もあるが、
それでもやはり素晴らしい映画だと言いたい。
この映画ほどに3Dである事の意義を感じた映画を僕は知らない。
世界観や登場人物に実体を持たせようとする為の3D。
そして、映画黎明期の観客の驚きを再体験する試みとしての3D。
躍動感溢れる美しい映像の数々に思わず目を見張った。
本作は、父との想い出にすがる孤独な少年が新たな絆を見出だすまでの物語としても感動的だ。
しかし何よりも、一度は夢を棄てたエンターテイナー・
ジョルジュ・メリエスの最後の姿に胸を打たれる。
考えてみて欲しい。
幾つもの戦争や天災を経験し、悲惨な現実の前では
空想など所詮は無力だと何度も嘆いてきた僕らなのに、
どうして僕らはそれを捨て切れないでいる?
どうして映画や舞台や音楽や小説や絵画などという、
根本的な生体活動にとってはそれこそ毒にも薬にもならないものを渇望する?
現実逃避? それだけだろうか?
断じて違う。
映画を見てくれ。
映画は悲惨な現実を憂い、嘆き、怒り、笑い飛ばす。
映画は人生の美しさを見出だし、歌い、それに恋い焦がれる。
あなたの知らなかった新たな知識を、視点を、感情を与えてくれる。
世界に、そしてあなた自身に新たな可能性を提示する。
現実に立ち向かうだけの希望と勇気を与えてくれる。
それが映画の、いいや、人間のイマジネーションが有する巨大な力だ。
フィクス・ユア・ハート、アンロック・ユア・マインド。
(人の魂が宿る機械人形は、人の夢を描く映写機と同義であり、
無機物に生命を吹き込む人間のイマジネーションの化身だ)
そして考えてみて欲しい。
この陰惨な世界を少しでも明るく照らそうと、作品を作り続ける人達がいる事を。
その人達もまた、同じ夢を見たいと願っている事を。
メリエスが映画の最後に語った言葉を覚えているだろうか?
彼は自信に満ちた笑顔と共にこう言ったのだ。
「Come and dream with me(私と一緒に夢を見ましょう)」
この作品が映画ファンの為の映画と思われてしまう事が、僕には残念でならない。
ここで語られているのは決して映画のみに限った話では無いからだ。
この映画は、夢に夢見た全ての人々に捧げられた作品。
人間が持つ無限のイマジネーションへの賛歌だ。
<2012/3/4鑑賞>