劇場公開日 2011年5月28日

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「ハイファッションの、奥、奥、奥」クロエ ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5ハイファッションの、奥、奥、奥

2011年8月29日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

興奮

知的

「秘密のかけら」などの作品で知られるアトム・エゴヤン監督が、ジュリアン・ムーア、リーアム・ニーソンといった実力派を迎えて描く、ラブサスペンス。

高級感をぷんぷんに漂わせるハイファッションで身を固めた上流家庭に属する一組の夫婦。彼等の前に現れた、一人の若く、美しい娼婦。熱を帯びた視線が幾重にも絡み合う官能の薫りに呼び寄せられる小さな疑惑、愛。枯れた色気が満ち満ちる一組の男女と、女が直面する緊迫のサスペンス。

にわかに芽生えた夫への不審から始まる物語は、愛と憎悪に追い詰められていく人間の息苦しさ、悪意を畳み掛けるようなスピード感を重視した物語展開をもって観客に提示する。

年を重ねる事で魅力を増していく夫と、逆に枯れ続けていく焦りに苦しむ妻を、二人のベテラン俳優が説得力を持って演じ切っていると思えば、輝く美貌を持て余す鋭き眼光の娼婦を、艶めかしく体現させた女優。これまで、真っ直ぐな女性、陽の空気いっぱいの少女を数多く演じてきたアマンダにとっては、本作の妖しき小悪魔の姿は大きな女優としてのステップに繋がっていくだろう。

某民放のお昼に流れてきそうな愛憎劇を予測してしまう物語ではあるが、観客は直に気付く。この物語、実は恋愛という単純な要素のみで構成された世界ではない。産婦人科医として一定の成功を収めた一人の女性が本当に求めていたのは、夫そのものではない。もちろん、女性でもない。セレブリティとしてハイファッションを着飾り、同階級のご婦人と会食する自らの怠慢、生き方、陳腐な輝きだったのだと。

気温も穏やかに下がり、葉も赤く色づき、孤独と反復が続く毎日にちょっと傷つく秋の日。そんなおセンチな貴方にこそ、この作品をお勧めしたい。今、貴方が本当に必要なもの、守らなければいけないものを考えるきっかけになってくれるかもしれない。

ダックス奮闘{ふんとう}