「ささやかな成長暦。」ももへの手紙 ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
ささやかな成長暦。
とてもささやかな物語だったが、このももへの手紙の書き出しが、
11歳の少女の心をどれほど残酷に痛めたかを思うととても辛い。
なんて不幸な出来事だったのだろう。
父母を喜ばせるために入手したチケットを渡そうとしたももは、
父が急を要する仕事で約束を守れなくなったと聞いてむくれる。
「お父さんなんか、もう帰ってこなくていい。」その言葉が、
本当に永遠の別れの言葉になってしまった。辛いなぁ…これは。
そもそもこの子は本当に父母思いの、内気だが優しい女の子だ。
彼女の思いが伝わる分、どれほど自分を責めているかが分かる。
何度も何度も手紙を広げて、お父さん、と語りかける少女の声に
(分かっちゃいるけど)早く答えを届けて欲しいと思ってしまった。
水玉~妖怪に変化する三体の生き物の正体は、おおよそ分かる。
彼らがももに対してまったく悪びれない様子にはほのぼのとする。
説教がましさがまったくないこの作品からは、自分で理解して、
立ち上がろうとする行程をじっくりと見せようというのが伝わる。
悪者といえば(盗みを働く)この三体くらいのもので^^;
瀬戸内の人々も同級生も皆、ももに優しい。こんな平和な現在が
あるのか?と一見予定調和な衒いを感じるも、周囲が良かろうと
悪かろうと、悲しみから立ち上がる人間を幇助するのは自分自身。
母親が悲しみをこらえて気丈に振舞うことに違和感を覚えるもも。
妖怪たちと関わるも、ほとんどその世話に追われるばかりのもも。
忙しい毎日に漂う違和感と波立つ心が、ももの成長に繋がっていく。
個人的に思うところが幾つかあり、途中で何回か泣けた。
母が、ももが、どれほどこの夫である父に思いを遺しているかが、
描かれずして伝わってくるのがとても切ないのである。
仕事を見つけて忙しく働く母と、妖怪の世話に忙しいもも、
悲しみを紛らわすにはもってこいの環境ながら、忘れない記憶。
どんな一家だったのだろうと思う後半で、その顛末が明かされる。
ももの告白には、涙がポロポロ流れて仕方なかった。
母親がももを叩いたあと、発作を起こしながら追いかけるところも、
親なら当たり前の行動と反省が痛いほど自分にもかぶさってきた。
子供は子供で、懸命に、親の思いを追いかけているに違いない。
飄々と振舞いながら、それを聞いて手助けするかと立ち上がる、
(しかしそこまでも長い)のんびりとした妖怪たちには癒される。
しょせん他人事、しかしそれでいいのだ。ムリな感傷はいらない。
それにしても本作は、全く画面が波立たない。とても静かなのだ。
なにがどう、起こっても、恐ろしくも、ハラハラもしない。
そういったアニメ独特の臨場感がないことに、アレ?と思う人も
いると思うが、ささやかな心の変化を読み取ることに長けている。
子供の成長なんて他人事には早いものだが、本人や家族には長くて
長くて^^;仕方ないものなのだ。オトナになるまでに幾つの悲しみを
力に変えて生きていくのか。ももの気持ちに返答する父親の言葉が
ももは大人になったね。と告げているようだった。頑張れ、もも。
(橋からの飛び込み、確かに怖いけどキレイな川なら入ってみたい)