「日本映画の良心」わが母の記 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
日本映画の良心
名画と呼ぶに相応しい。
今年始まってまだ半分も経ってないが、間違いなく現時点での日本映画のベスト。
これからも多くの期待作が公開されるが(夢売るふたり、終の信託、おおかみこどもの雨と雪…等々)、年末になってもその地位は揺るぎそうにない。
他の方のレビューを見ても、大方同様の感想を述べており、僕も全くの同意見なのだが、やっぱり言わずにいられない。
まず、原田眞人監督の演出。
これまで社会派映画が多かったが、一連の作品で培ってきた細やかでリアルな演出が、初挑戦となるホームドラマでも違和感なく発揮されている。
絶妙な間や会話のテンポ等、よくあるホームドラマとは違うリアリティを出していた。
俳優たちの見事なアンサンブル。
役所広司はいつもながらさすがの名演。
宮崎あおいも少女から大人の女性への成長を、美しくナチュラルに演じていた。
豪華共演陣も、家族や親戚にこういう人いるいる、と思わせる適材適所。
そして何と言っても、樹木希林!
名演技と言うのが言葉足らずなほどの名演技。
いや、演技というものを超えている。
かと言って、素な訳がない。
どうやったらここまで成りきる事が出来るのか、言葉さえ見つからない。
老いて記憶が薄れても、盲目的に息子を探し続ける母。
母に捨てられた記憶から、何処か母に抵抗を感じる息子。
そして自分もまた、奉仕は愛情と言って、娘たちに壁を作っている。
ただ支え合って寄り添い合うだけではなく、時には衝突したり苛々したりしながら歩み寄って行く姿は、誰もが覚えがある筈。
映画は役所広司演じる息子と樹木希林演じる母がメインだが、役所広司演じる父と宮崎あおい演じる娘であったりと、各世代に通じる“家族”の話である。
そんな家族の話が、美しい日本の風景を背景に語られ、これ以上ない名画になっている。
日本と、日本映画と、日本の家族の姿に、改めて素晴らしいと賞賛したい。