「壊れたら・・・良い、じゃない?」スノーフレーク ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)
壊れたら・・・良い、じゃない?
リメイク版「時をかける少女」を手掛けたことで知られる谷口正晃監督が、現在大きな注目を集める女優、桐谷美玲を主演に迎えて描くミステリー作品。
「ハート・ウォーミング・ミステリー」という何とも中途半端な売り文句で話題を集めた原作を、満を持しての映画化。冒頭から冷徹な眼差しのアップから始まる物語は、同時上映となる「乱反射」の持つ煌き、温かさとは正反対の硬質さを称えている。
二転三転を繰り返すストーリーを丁寧に料理し、桐谷扮する主人公、真乃が直面する緊迫の危機一髪!など、観客を飽きる事無く物語に引き込もうとする意欲が満ち溢れており、その剥き出しの創意工夫には安心して観ていられる力強さがある。
のだが、映画として手を変え、品を変えミステリーとしての体裁を整えていこうとしても、いかに読者の予想をひっくり返せるかに評判が左右されてしまう現代ミステリー作品界の流れにしっかり、堅実に乗っかっている原作の弱さを十分に補うに到っていないのは否めない。それは、余りに唐突に転がっていくラストの種明かしに滲み出る強引さと矛盾の乱れ撃ちに顕著となっている。
人の持つ鬱憤、抑圧、そこから輝きだす爆発と哀愁が、単純に意外性と驚きに終結してしまうやるせなさは、観客の好奇心と共感を萎えさせてしまうことになるのは大きな改善点か。
そんな敗北感漂う世界の中で、一見に値するのは「君に届け」でも桐谷と共演している青山ハルの存在だろう。
十分に場数を踏んでおらず、演技経験がそれほど豊富でない役者に「とりあえず、壊れてみて?」と演技をつけると、稀に本作のような強烈な破綻が生まれる。
内容は多くはいえないが、怖いのか、悲しいのか、嬉しいのか、怒りか、おそらく本人も理解できていないイケメンのぶっ壊れが堪能できる。これがまたずば抜けた顔立ちの良さゆえ、もう観客は寒気すら感じてしまうほどに狂気が満ちる。どうした、青山。やるな、青山。これも才能であり、可能性なのだろう。ただの大根俳優かと勘繰っていたので、これには驚かされた。
作り手の策略でないとしたら、この崩壊はかなりの幸運の産物だろう。
同時上映の「乱反射」が桐谷のための映画だとしたら、本作は間違いなく、青山ハル、飛翔の映画と言えるだろう。一見の価値は、ある。