カンパニー・メン : 映画評論・批評
2011年9月13日更新
2011年9月23日よりヒューマントラストシネマ有楽町ほかにてロードショー
非情な経済に別れを告げ、人間性を取り戻せと告げる群像劇
諧謔味(かいぎゃくみ)を込めて解雇宣告人を描いた「マイレージ、マイライフ」が、すでに牧歌的な近過去にさえ思えてきた。「ER」を手掛けたTV界の俊英ジョン・ウェルズによる本作は、リーマン・ショック後の切羽詰まったアメリカ社会を、いとおしい眼差しで見つめる重層的な群像劇だ。
撮影監督ロジャー・ディーキンスのキャメラが切り取る、人の気配が希薄なボストンの街。ここに本社を構える大企業が赤字の造船部門を鉄道部門と統合し、大規模なリストラを突如断行する。物語の軸は、解雇対象となった30代後半のエリート社員ベン・アフレックの漂流だ。生活レベルを下げる再就職に踏み切れない誇り高き男が、家族に支えられながら徐々に変化し、旧来の価値観に別れを告げていく展開は、低成長時代の現実感を伴っている。
オスカー俳優陣の配置が見事にはまり、苦味渋味の名演に魅せられる。溶接工から重役へ上り詰め、潰しが利かず焦燥感を露わにするリストラ組クリス・クーパー。CEOの非情な方針に、頑なに抵抗する古参トミー・リー・ジョーンズ。役者人生に黄信号が点るアフレックの悲哀は役柄に絶妙に重なり、過去の人と化したケビン・コスナーを人生の機微を知るブルーカラーに配したのも巧い。
決して声高ではないが、本作を貫くのは強欲資本主義への怒りと嘆きだ。社員とその家族の生活を軽んじ、株価維持のために会社はあると開き直って、さらなる富を追い求める非人間的経営の否定。地道なもの作りへの回帰こそが急務であり、奈落の底に落ちた今こそ、人間性を取り戻し再起するチャンスであると、本作は静かに告げている。3・11後の日本人の心にも深く刺さるはずだ。
(清水節)