リアル・スティール : 映画評論・批評
2011年11月29日更新
2011年12月9日より丸の内ピカデリーほかにてロードショー
ロボットを介して父性を回復させるウェルメイドな活劇
いつかどこかで見た光景には違いない。チャイルディッシュな物語の典型であるのは百も承知だ。家族を捨てた父と息子の再会。荒んだ近未来に束の間の興奮を与えるロボット格闘技。サブカル先進国・日本へのいささか妙なオマージュの数々。ありきたりなモチーフの組み合わせであるにもかかわらず、家族の心の琴線に触れる描写は、ウェルメイドな娯楽アクションとして申し分ない。
極限状況の恐れを視覚的に描くリチャード・マシスンの原作は、いつの時代も膨らませ甲斐がある。マニュアル操作のロボットを闘わせ、どさ回りで糊口を凌ぐ元ボクサーは、自らの限界を感じている。廃棄処分になっていたコンピュータ制御の旧型ロボットは、次世代を生き抜くスキルを身に付けつつある息子の手に委ねられる。人間の動作を真似ることが可能なメカという設定が、ぎくしゃくとした親子の心をつなぐ上で見事に機能していく。それは世代間だけでなく、虚実の溝を埋めてくれる。鋼鉄のボディを介し、子は初めて父の往年の能力に敬意を抱くのだ。ただ単に、父の背中を見せるだけでは子は育たない時代の現実が、ここにある。フィジカルな躍動をデジタルへ伝承する。この命題は、CG特撮の進化そのもののメタフィクションにもなり得ていて興味深い。
スピルバーグ・プロデュースによる本作は、「ポルターガイスト」よろしく、父性を回復する幻想譚という意味においてブレがない。銀幕のヒーローになりきり、怪鳥音とともに首を左右に振った経験のある者はご注意あれ。試合が進むにつれ、金にモノを言わせ最新技術で武装した強敵に、アッパーカットを繰り出す自分を抑えきれなくなるだろう。
(清水節)