「笑い、そして人間の素晴らしさをこの作品から感じて欲しい!」さや侍 Ryuu topiann(リュウとぴあん)さんの映画レビュー(感想・評価)
笑い、そして人間の素晴らしさをこの作品から感じて欲しい!
『これは、時代劇ではない!!』完全なるコメディーだ。時代考証が、とか、江戸時代にあれはあり得ないと、言い出し、あら探しをしているとこの映画の本当の良さを楽しむ事は出来ない。それは丁度、チャップリンの『独裁者』で突然、踊りだすシーンがあるのは、リアルでない、嘘だ!と云い張るのと同様に愚かな事である。正直、前作の『しんぼる』は何や分からん映画でしたが、本作は『しんぼる』と同様コメディーと言っても、その出来は、似て非なる作品だ。松本監督の代表作として今後も、これは高い評価を受ける作品となる事だろう。文句無く素晴らしい作品だ。未だ見ていない人の為には、お笑いシーンも満載なので、ネタは明かせないのが残念だが、この映画、江戸仕立てではあるけれど、そこに描かれている人間像は、正に今の日本人の心を一刀両断!この現代の我が国に今蘇って欲しい和の美徳がずしりと胸に突き刺さるのである。思わず背筋がシャキっと伸びる思いで映画を観終えた。『さや侍』、この作品、刀は確かに誰の目にも見えないけれど、心を静めて、映画をよく見ると、その刀がしっかりとさやに納まっているのだ。誰にも見えない筈の刀が姿を現しているのであった。侍にとり、刀は魂であり、とりもなおさず武士の生命であり、その侍の心そのものなのである。
映画は娯楽であるから、客を笑わせ、大いに楽しませる事が、その最たる使命かもしれないが、同時に観客の人生の大切な時間を費やすのであるから、客を楽しませるだけではなく、もう一歩、踏み込んで『ああ、この映画に出会えて、自分の人生にプラスになった、今日も、良い時間を過ごす事が出来た!』と言う気持ちで、映画館を観客が後にする事が出来れば、その作品は映画として、それは大きな役割を果たした秀作と言えると思う。
その意味でも、映画に携わる作者も、作家としての誇りを、魂を作品に込めると言う、気概を持って今一度作品作りに臨んで欲しいものである。
この作品で松本人志監督は、コメディアンとしてのサービス精神と、映画作家としての作家魂を作品に注入するという、これまでのコメディアン生命を懸けた、作品であると見た。黒澤映画『椿三十郎』で良い刀は、さやに納まっているものだと言うセリフがあるが、是非この作品を観て、貴方も目には映らない、その良い刀をしかと、さやに納め、剣を手にして欲しいものである。