「オトコが武士になる時。」さや侍 ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
オトコが武士になる時。
このヒトの作る作品は、取っつきやすいか取っつきにくいか、
理解できるか理解できないか、ドラマ性があるのかないのか、
という観点で私は捉えてきたんだけれど、今回はその全てを
網羅してしまった感じだった^^;
ただ時代劇、という観点で見るとずいぶん遊んでいるようで
そうでもなく、結局お定まりの部分はしっかりとそのまんま。
お笑い芸を縦横無尽に取り入れた前半と、泣かせる後半で
ガラリと様相を変えて魅せてはいるのだが、この主人公が
あくまで侍=武士であることを考えれば、ラストはあれが然り。
なので僧がいきなり歌い出す後半以外はほぼ予想通りだった。
観やすかったし、いい作品に仕上がっていると思う。
それにしても、子供が生まれるとこんなにまろやかになるのか^^;
松ちゃんもごく普通の男だったんだなぁ、と思った。
人間を遥か遠くに突き放すような、シニカル目線で語るところから
ずいぶん市民目線にまで下がってきたのね、という印象を受けた。
と同時に、父親とは何か。娘から見て尊敬できる生き方とは何か。
なんというか、自分の娘に語りかけているような説教性を感じる。
板尾の台詞、「父を途中で見捨てた娘が何を言いやがる。なぜ
一緒に考えてやらんのだ。」には娘には理解できないだろう父の
業に対する想いや執念、行き詰った人生とその終焉に相応しい
業と武士としての生き様をしっかり見届けてやれ!の想いが詰る。
言い換えると、
この先、お父ちゃんの仕事ぶりを(良い時も悪い時も)見守ってくれ!
と、松ちゃんが娘に語りかけているようにも感じられるのである。
この主人公が刀を捨てるのは、最愛の妻を失くした失意からであり
主人公に刀を持たせるのは、最愛の娘からの叱咤激励なのである。
オトコは自分を支えてくれるオンナ如何によって武士になる…かな。
主人公、野見勘十郎を演じた野見隆明は素人さんなのだそうだ。
ま、普通の。ではないけど^^;確かに台詞は唐突な言い回しだった。
ところが。ラストでキッと斬首役を睨みつけ、止めるところがある。
このシーンの表情は立派な役者顔で、娘役の熊田聖亜も誉めてた。
思うに、ここで野見さんは↑オトコになったんだなと(爆)
僧が河原で詩を詠みながら、だんだんと歌い始めるシーン、
墓参りの娘と笑わなかった若君が笑いながら走り回るシーン、
現代になって変わらず残る墓とそこを通り過ぎる(!)自転車…。
まぁおそらくどの映画でも描かれたようなシーンをサラリと流し、
ごくごく普通の余韻を残して今作は終わる。まぁ後味はいいかも。
と思っていたら「うどんすすり指導」のエンドを発見して噴き出した。
これが松ちゃんの業なのね。
(大きくなったら娘に観せてあげるといいね。ダメ出しされたりして^^;)