「人を小バカにしたドライなギャグとバイオレンスは新たなる回帰」スマグラー おまえの未来を運べ 全竜さんの映画レビュー(感想・評価)
人を小バカにしたドライなギャグとバイオレンスは新たなる回帰
キャラの上下関係問わず相手を小バカにするユル〜〜いギャグと、平気で血肉を粉砕するドライな暴力描写がハジケる疾走感は、石井組デビュー作『鮫肌男と桃尻女』の世界に回帰した面白さを感じた。
我集院達也や島田洋八etc.独創的なキャスティングが健在なのもファンとして嬉しい。
血しぶき乱舞する残酷なタッチと繋がりをあまり意識しない非現実的な笑いの昇華は、開き直りとも開眼とも呼べるキレ味を生む。
受け入れたい客だけが勝手にわかってくれりゃいいという前提でイッちまう娯楽性は、『殺し屋イチ』で好き勝手にやっていた頃の三池崇史や『キル・ビル』を完成させたタランティーノetc.の全盛期のバイオレンスクリエーターへのオマージュと云えよう。
ワケありの過去を持つ運送屋リーダーの永瀬正敏、拷問好きのイかれたヤクザ(高島政宏)、並外れた殺人能力を見せつける殺し屋・安藤政信etc.好戦的なキャラが血なまぐさくひしめく。
その中で、ウダツの上がらない弱気な妻夫木に石井ワールドの意図が最も集約されていたと思う。
トラブルが悪化するに連れて、彼の秘めていた狂気を呼び覚ます。
覚醒までの痛々しさに、魅力を見いだせるか否かで今作の評価が大きく二分化されるであろう。
拷問シーンetc.バイオレンス描写がやたら長く、辟易したのはバイオレンス映画の悲しい性分だが、人はなぜ他人を簡単に傷つけるのか?
という人生哲学を純粋にブツケてくる力強さは貴重だ。
故に褒めるのがとても厄介だが、観賞直後にパンフレットを購入してしまった。
『さや侍』以来、久し振りやないかな。
つまり、私にとって、そういう映画なのである。
では最後に短歌を一首
『毒廻る 腐ったシノギ 降らす雨 抜け荷バラして 沁みる背骨さ』
by全竜