「大人の女性好みに味付けされた昭和の距離感」コクリコ坂から 全竜さんの映画レビュー(感想・評価)
大人の女性好みに味付けされた昭和の距離感
監督がかの世紀の凡作『ゲド戦記』を世に放ちやがった宮崎吾郎だけに、期待より不安の方が遥かに上回っていたが、逆にハードルが低過ぎて、面白く感じた。
まぁ、ゲド戦記と比較したら、そりゃぁ何だってオモロいハズだが…。
全体の印象は、本格的に声優初挑戦した長澤まさみの演技は違和感が薄く、むしろ先輩の岡田准一より相当ウマいなぁぐらいしか無い。。
その程度のクオリティである。
昭和30年代の日本文化をノスタルジックに引き出し、賛美するスタンスは『三丁目の夕日』以上に露骨で、懐かしさを狙う了見が鼻について仕方がなかった。
清純な両者の若々しさを重点化した展開は、吉永小百合&浜田光夫が得意とした日活青春映画そのもので新鮮味が皆無。
わざわざ現在に、アニメ化する必要性に疑問視が拭えない。
第一、ガキの客共に舟木一夫や当たり前田のクラッカーとか懐かしフレーズをブツケたところで、作り手側は何をどうリアクションを求めているのであろうか?
不親切なサービスであり、意図が不明やから、その時代の魅力なぞ、伝わってきやしない。
集会シーンetc.で、「どいつもこいつも理屈っぽい学生どもやな〜〜ウザいわぁ〜〜」と、各キャラの厚かましさに引くばかりだった。
その割に1人1人の個性は極端に薄っぺらい。
要するに、一貫してストーリーの核が見えぬままなのは、致命的である。
恋なのか、学生闘争なのか、家族愛なのか、時代背景なのか、レンズの焦点が定まっておらず、《大人VS学生》の対立構造がボヤけ、盛り上がりが欠落している。
本来、中心である恋も朝鮮戦争がもたらした複雑な人間関係の延長上に過ぎない。
しかも、どのエピソードも唐突でオチなんざあった試しがないから性分がワルい。
主人公達が、何をそこまで熱く駆り立てているのか引っ掛かりが見つからないの当然やと思う。
まあ、『海がきこえる』とか『おもいでぽろぽろ』etc.ノスタルジックを売りにしたジブリアニメを好む人には評価が高い作品ではなかろうか。
すなわち大人の女性向けの世界観である。
《結論》
よって、男とガキはリアクションに困る。
では、最後に短歌を一首
『恋宿す 旗をくすぐる 潮風に 背伸びする坂 船出追ふ夏』
by全竜