「スポ根映画も、イノベーション!」もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)
スポ根映画も、イノベーション!
「タナカヒロシのすべて」などの作品で知られる田中誠監督が、人気アイドルグループAKB48の前田敦子を主演に迎えて描く、青春映画。
数年前、「天体観測」という名の青春群像劇がTVドラマで放送されていたのを思い出した。物語の筋書きはあまり記憶には残っていないが、とにかく毎回、毎回誰かがぶん殴られていたのは強烈な印象に残っている。「青春は、衝突と喧嘩、恋愛があればそれでいい」そんな言葉がぴったりの、熱く疾走する物語。それが、青春と思って誰もが疑わなかった。
そんな時代が、遂にこの作品を持って終わりを迎えてしまうのかもしれない。青春スポ根映画と銘打って発表された本作。確かに、高校野球という青春の代名詞ともいうべき舞台があり、夢の甲子園へとがむしゃらに突き進む高校生の輝きが描かれ、ほとばしる汗が眩しい。
しかし・・何とも「良い子ちゃん、優等生」ばかりである。反発や抵抗の描写もあることはあるが、マネージャーを演じる前田の頼りない一喝で、「そうだな、ごめんね」ではい、おしまい。経営学のセオリーにほいほいと従って、あれよあれよと強くなりました。それが、熱い高校球児の「今」なのか。頼りない限りである。
眠気を誘う前半の経営理論解説の、ダラダラとした流れの悪さ。せいぜい苦笑を誘うが精一杯のギャクネタは、まあ女優陣と大泉の奮闘に免じて許せる。だが、後半の肝となる甲子園予選のくだりは、どうにもやるせない。
事あるごとに「タイム」を取り、経営学の論理と戦法を語る、語る。打てるか、討ち取れるか!どうなるか・・ドキドキ。「タイム」・・・「監督、どうしましょう!」・・・。これでは、試合展開に手に汗握る観客も、乗り切れない。毎回考え、論立て動く。現代劇らしいといえば聞こえはよいが、ドラッガー理論の必要性を何とか証明しようとする必死さが垣間見え、白けてしまう。野球のシーンを情熱的に、真摯に描かずにどこを魅せろというのか。アイドル前田の笑顔か。
物語の精神的支柱となる元マネージャーを演じる川口春奈の素直、かつ堅実な演技に小さな喜びを覚えつつ、青春映画の意味合いがどうにも、思わぬ方向へとイノベーションを始めている事を実感させる本作。後半唯一の平手張りのくだりに、懐かしさと爽快さを覚えてしまうのは私だけだろうか。