「岩がもたらす教訓。」127時間 ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
岩がもたらす教訓。
前作「スラムドッグ~」で見事オスカーを手にした監督だったが、
そもそもこの監督と、オスカーがしっくりこなくて(スイマセン^^;)
作品自体もまったくピンとこなかった…D・ボイルじゃない感じが
どうも否めず、今年のオスカー候補になった本作をどう観ようか、
なんて要らぬ心配をしてしまった…が。良かった!今作はちゃんと
ボイルしている(茹でたんじゃなくて^^;)彼らしい仕上がりになった。
疾走する映像とポップな音楽、スライドショーのように主人公の行動
を見せた後、悲劇の渓谷へカメラは迫る。。あー!!と思った瞬間、
ここでタイトル。。巧い^^;つまりここから5日と7時間の死闘が始まる。
主人公アーロンの足取りは自由気ままだ。誰にも行き先を告げず、
ケータイも家に置き去り、軽装と軽い飲食物のみを持って出掛ける。
もちろん本人は、まさかそんな事故に遭うとは思っていない。
観るまでもっとちゃらんぽらんな若者だったのかと勘違いしていたが、
登山の知識は豊富で危機管理も(自分なりに)しっかり持ってはいた。
ただ、誰も行かないようなところへ行っちゃったのが…運のつき。。
岩に腕を挟まれて以降、彼のひとり日記が延々と続く。
初めこそ威勢のいい彼だったが(ビデオに終始録画するのが面白い)
脱出作戦が巧くいかず、段々と体力も落ち、幻想を見るようになる…
確かに彼は、喧騒から離れひとりになるため、ここへ来たのだろう。
偶然出会った登山女子二人に道案内し、水遊びをして別れる時にも、
明らかな痕跡は残していない。。でも思うに、これだけ自分の遊び場
と化した大自然で経験を積んでいたら、彼のように慢心に陥るのも
不思議ではない。まさか!の事故は、そんな時にこそ起こるのかも。
脱出を試み、水を飲み、尿を出し(それも溜める)、ビデオを撮り、
寒さに耐え眠り、幻想を見る、そしてまた脱出を…の繰り返しも
限界に近づき、彼はある決断を下すまでになるのだが、、観ている
こちら側も彼がこの先どうなるかが分かっているため(汗)次第に
拳に力が入ってくる…え、今やるの?え、何ほんとに?…とずっと
目を開けたり閉じたりの繰り返し…(+o+)かなり心臓には悪い痛み。
でも、そこから目を背けずに次の段階へと導く映像も素晴らしい。
監督のカメラは彼から一歩も退かずにしっかり彼を捉え、更に次の
世界へと彼を引っ張っていく。泥水を飲み、生の歓びを噛みしめた
彼が、見知らぬ登山一家に助けの声をあげるシーンには…泣けた!!
自身の気持ちを表にちゃんと顕わせなかった彼が、初めて他人に
救いを求めたんじゃないだろうか…?と思わせる感動的なこの場面。
生き辛い都会生活でも、それがあるからこんな大自然の素晴らしさも
味わえるんじゃないのかなぁ。当たり前の美しさなどどこにもないのだ。
人間関係がどんなに窮屈でも、自分を待っている人がいるというのは、
堪えられない充足感が得られるものだ。みんなに逢いたい。帰りたい。
何としても帰るぞ、ともがく青年の叫びがとても胸に残る作品になった。
こんな一人称の作品でこれだけの完成度、しかもサラリとしている。
どうしてこの作品で監督はオスカーをとらなかったんだろう^^;なんて
大きなお世話を言ってしまうけれど、死を前にして生への躍動感が
これでもかこれでもかと押し寄せてくる意欲作。フランコお疲れさま!!
(エンドのご本人に感嘆しつつ、今後はメモが必須だぞ!と確認しつつ)