「主人公が時代の流れに対して何もしていない」アレクサンドリア Cape Godさんの映画レビュー(感想・評価)
主人公が時代の流れに対して何もしていない
総合:65点 ( ストーリー:65点|キャスト:70点|演出:75点|ビジュアル:85点|音楽:70点 )
私は知らない人物だったが、これを観る限り、古代にこれほどの知性と才能を備えた女性学者ヒュパティアが歴史のうねりの中に消えてしまったのは人類の大きな損失だった。
だがそのヒュパティアの科学への探求と生き方が描ききれているわけでもない。宗教と歴史の動乱の描き方が良かったし、全体の質は高いのだが、ヒュパティア本人が作品中の動乱の中に埋もれてしまって目立っていない。演じたレイチェル・ワイズの演技が悪かったとは思わず、この動乱の中での彼女の役割がはっきりと物語として描かれていなかったのが原因。宗教を絡めた対立が起きているとき、彼女は研究に勤しみ自分の生き方を貫く。だが社会の大きな変化に関心を示さず自分の研究に集中している彼女の生活が、作品の動乱の流れの中で浮いてしまっている。キリスト教徒になるのを拒むといった能動的な部分は少しはあるものの、ただの不幸な犠牲者の一人程度の扱いになっている。
彼女のことより、むしろ宗教を軸にして人々の酷い動きを描いていったほうの描写と、宗教が力を持って国を支配していく流れのほうが面白かった。権力構造の変化によって人と社会が変わっていくし、血生臭い部分を堂々と見せる演出に迫力があった。大量動員して古代都市を描いて死体を写した映像はかなりの出来映えだった。残念ながら、ヒュパティアと社会の動乱の2つの流れがうまくまとまっていなくて中途半端に感じる。
この作品のアレハンドロ・アメナーバル監督、前作『海を飛ぶ夢』でもキリスト教の牧師か誰かがあまりいい役で出てこないし、今回もキリスト教が権力を握り排他的で残虐な動きに出ることを描いた。キリスト教徒の多い欧米でこのようなことを描く作品を作るのは障害も多いはずだが、それを堂々とやってしまったのは驚いたが、それでも制作されたスペインでは売れたというのもまた驚いた。