「男は白い歯で、ツブヤイチャッター」キラー・インサイド・ミー ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)
男は白い歯で、ツブヤイチャッター
「ひかりのまち」などの作品で知られるマイケル・ウインターボトム監督が、ケイシー・アフレックを主演に迎えて描く、サスペンス映画。
ふんとにもう、がっかりなのである。決して、本作に対しての感想ではない。無口で清純派のイメージで通っている某有名人のブログを覗いてみた時に読んでしまった「すっげーデッカイたこ焼き買ってしまったニャー」の一文への思いである。別に悪くは無い、悪くは無いのだが・・一瞬頭をよぎる嫌悪感。有名人を纏うイメージの神聖さは、何処へ行ったのかと。
本作を観賞した際に脳裏に焼きつく違和感の正体は、つまりこういうことなのだろう。一見、温和にスマートな印象をもつ人間が実のところ、心に闇を抱えているというテーマは、取り立てて特異なものではない。むしろ、私達の日常に深く根付いている感覚の一つだろう。
その中で、本作をノワール映画として、奇奇怪怪なサスペンスとして成立させているのは、主人公が当たり前のように自分の闇をひけらかして展開していく、無邪気な開放感。そして、言葉がもつ意義への疑惑が関与している。
「お前が、殺したんだろう?」と詰問される主人公。大半のサスペンスならば、悲痛な後悔、衝動を吐き出すようにお涙頂戴の自白シーンへと展開するところが、本作はそうもいかない。「俺は、奴に話したのさ・・」と、まるで他人事のように殺人劇を朗々と語ってしまう。拳銃で絶命した男、思わぬ死を迎えた女性・・あるはずの悲しみはそこにはない。ただ、事実を述べる言葉だけがある。
これは、現代のツイッターやブログに唐突にぶちこまれる言葉の乱れ打ちに酷似している。「私のイメージなんて考えずに、吐き出しちゃった・・てへっ」な言葉達には、覚悟も失意もない。ただ、思いつきの軽々しさばかりが漂う。その言葉は独り歩きし、著者への勝手な妄想と嫌悪感がじわじわ、膨らんでいく。これは、怖い。
狂気に走る主人公の苦悩が作るはずのドラマはどこへ?解決も、再生もこの空間には入り込む余地が無い。「苦しみの動機」が無いのだから。独り言のように進む物語もまた然り、他人への配慮が決定的に抜け落ちている。これは、怖い。
麻木久仁子とジャーナリストの不倫騒動もまた、つぶやきが発端だった。著者は思いつき、世間は大騒ぎで当人は芸能活動自粛。著者は、この結果を想像できたか・・・どうだろうか。
小さな田舎町で起こった殺人事件を題材に置きながら、本作は現代に息づく使い捨てられる言葉達への鋭い警告を観客に提示しているように思えてならない。「たこ焼き買ったニャー」の一言が、一人のタレントを支えるイメージを、安定を容赦なく破壊するというスリルと、恐怖。これは、正にスマホ世代にこそ目を向けて欲しい教訓話として成立しているのだ。