「【「わたしたちは、あの場所に戻るのだ」/温もりを求める冷たい肌感】」海炭市叙景 ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)
【「わたしたちは、あの場所に戻るのだ」/温もりを求める冷たい肌感】
函館三部作と呼ばれる作品の一つ「海炭市叙景」で感じたのは、どこか冷たい肌感だった。
原作の「海炭市叙景」は、未完の佐藤泰志の遺作でもある。
海炭市という北の港湾都市を舞台にしているからというだけではない。人々が寄り添う気持ちを持ちながらも、どこかに不安やいたたまれなさを抱え、傷つけ、ぶつかり合い、それでも生きていこうとする姿が心を締め付ける。
日本がバブル景気で、都市部を中心に再開発が進んでいたころ、実は産業構造も転換期を迎え、多くの地方都市が衰退する予感を抱えていた。函館も同様だったのだ。
砂州に広がった海炭市は函館のことだ。
この1980年代に、この物語を構想し執筆していた佐藤泰志さんの市井を観察する目に改めて驚かされると同時に、今僕達に足りないものは何かを考えさせられる。
傷付け、ぶつかり合いながらも、他方では、寄り添う気持ちを持ち、そして生きていく。
コロナ禍の下の、ソーシャル・ディスタンスや、リモート・ワークのなかでも、人は人であるために必要なことはあるのではないのかと考えさせられる。
レビュータイトルの「わたしたちは、あの場所に戻るのだ」は、映画のキャッチコピーだ。
あの場所とは、元旦の初日の出を望む山頂のことだ。
赤い初日が照らす山頂で祈り、そして、どこかで温もりや希望を求めながらも、そこには、まだ、冷たい肌やいたたまれない心があるのだ。
だが、人は祈り続けるのだ。
ケーブルカーで下山する妹を見つめていた井川が、自ら命を絶ったのではないことを願うばかりだ。
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