「人が育つために必要なもの」八日目の蝉 とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)
人が育つために必要なもの
波止場の場面、泣かせてくれます。
でも… でも… 心に楔が突き刺さる…。
☆ ☆ ☆
慈母だけでも賢母だけでも子どもは被害を受ける。
優しさって心地よいけど、その有様によっては一番残酷。
どの人の立場に立つか、感情移入するかによって様々な感想が産まれる。
たくさんの人と語り継ぎたい物語。
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人の奥底に眠る何かを動かす映画なのだろう。
たくさんのレビューを拝見して、こんなにいろいろな視点があるのかと愕然。自分の見識が広まったような、深まったような。そしてたくさん考えさせられました。たくさんのレビュアーさんに感謝。
原作未読、NHKドラマ未視聴なので、この映画だけの感想です。
八日目の蝉=マジョリティとは違う経験を望まぬのにさせられた…それをどう自分の人生に位置付けるか、その過程の物語と思いました。
千草が言う。「普通に育ちたかった」と。
悪い誘拐犯に育てられて母を苦しめるようになった悪い自分、だから人を本当に愛せない。そう思っていた恵里菜が、自分の過去をなぞっていく。…そして見つけたもの…。
でも、恵津子があまりにも悪者に描かれていて片手落ちで手放しで称賛できなかった、と言うのが初見での感想。
けれど、他の方のレビューを読むうちに希和子の愛は本当に母性なのかと思うようになってきた。
がらんどうの自分を埋める為にたんに家族ゴッコしているだけ?幸い薫は希和子に似ていた。もし、薫に恵津子の面影が感じられたら、希和子はあんなに可愛がることができたのだろうか?
恵津子は単に被害者なの?。
恵津子の心は希和子に殺されたけど、恵津子も希和子の心を殺した。
お腹を痛めた子どもと夫を奪われた辛さは共感できる。
でも、恵津子は、恵理菜の中に希和子を見つけ、競争し、失ったものを憐れんでいるだけ。
血が繋がらない子を育てている人はたくさんいる。
一番かわいい幼少期を知らないままに子育てに奮闘している人はたくさんいる。
子どもの中に、自分が愛した人でない人の面影―時に憎んでいる存在―を感じながらも、家族になろうとしている人はたくさんいる。
―養子、再婚相手の連れ子…。
そんな家族で育った人が、全て恵理菜のように人を愛せない人に育っているわけじゃない。
反対に乳幼児期から実の両親に育ててもらっても人を愛せない人はいる。有名な冬彦さんのように。
ひたすら子どもに愛をそそぐ慈母。
子どもの将来を見据え子育てをする賢母。
希和子は慈母ではあったが、賢母ではなく、結果薫を苦しめた。もし、成人するまで育てたとしても、人の目をはばかる生活…それがどんなふうに影を落としたやら…。
恵津子は慈母・賢母になりたかったのになり損ねてしまった。
その二人の悲しみ・苦しみが観ていて辛い。
慈母だけでも子を潰す(子が自立できない)が、賢母だけでも子は潰れる。慈母と賢母の程よいバランスが難しい。
そんな母性を抱える環境。
母性を支えて、時に修正する役目、新しい世界へ子どもに与え、社会適応を促す役目の父性。
そんないろいろな機能が子どもに関わって、皆で子育てできればいいのだけれど…。
希和子と薫は小豆島が、沢田夫妻が抱えてくれていた。穏やかな時間があった。
でも恵津子にはあったのだろうか。丈博は恵津子や恵理菜に優しかっただろうが、しっかりと向き合って抱えているようには見えなかった。父性がなかった。そして、丈博が職場を何回も変わったというような世間からの好奇心。これじゃ母性が空回りして、鬼子母神になるしかない。守られていないのだから。やたらに綺麗で立派でおしゃれなキッチンが寒々しかった。
胸がしめつけられた。
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同時に、希和子、恵津子にとって子どもってどんな意味を持っていたのだろう。
ともにがらんどうな自分を埋めるためだけのもの?夫の愛人・妻を見返す為の道具?
でも、それだけではなく、理屈では説明できない感情で、無性に子どもが欲しくなる感覚はわかる。神様からの贈り物、世界の全て。自分と置き換えても構わない存在。その感覚はただ自分の空虚感を埋めるためだけのものではない。その人にとっての本能なのだとしか言いようのない感覚。それが、希和子に誘拐をさせてしまったのだと思いたい。
柏木著『子どもという価値』中公新書を読み直したくなった。
☆ ☆ ☆
ストーリーは、長い話をまとめただけに、若干、ぶつ切りのところもある。
もっと、夫・妻・愛人等のいろいろな側面を見たかった気がする。ちょっと、希和子が善人に描かれすぎて、恵津子と丈博のダメな部分が強調されているような気がする。
それでも、
映画としての出来は、役者のすごさに尽きる。
小池さんの怪演は色々な方がすでに絶賛されている。
永作さんと森口さんはたぶん役柄入れ替えてもきっちり魅せて下さるのだろうなと思う。
余さんと田中泯さんも、香辛料のようなインパクト。ないと色褪せる。
田中哲司さんは少ない出番の中で、秋山の人となりを演じ、
平田さんと風吹さんの普通さがとても小豆島にあっていて心安らぐ。
乾杯(完敗)です。