「最後のスピーチに泣けました」英国王のスピーチ こどもの国のレグチーさんの映画レビュー(感想・評価)
最後のスピーチに泣けました
なんといっても圧巻は、ドイツへの開戦を国民に伝えるスピーチ。バックにBeethoven Symphony No.7 II mov. が流れる中、最初は実にたどたどしい喋り方で、矯正士のローグが逐一素振りでアドバイスをするが、少しづつ良くなり、というより喋り方は相変わらずちょっとたどたどしいけれども、気持ちがこもっていき、ローグも何のアドバイスもせずに聞き入っているだけになってくる。
このシーンがあまりにも感動的で、この曲の、少し躊躇いながら確実に盛り上がっていく雰囲気とあまりにもぴったり合っていたので、うちに帰ってからこの7番の第2楽章をもう一度と言わずなんども聴き直しました。映画を見ているときには、このスピーチと音楽の協演にまさに感動を覚えて、涙が止まりませんでしたが、ウチでこの曲を聴いているとその感動がよみがえってきて、またこの映画の良さををもう一度かみしめることができました。
人は、単に何かが出来るということに感動するんではなくて、何かができるようになるということに感動するのかもしれません。じょうずなスピーチももちろん人を感激させるでしょうが、いままでうまく喋れなかったジョージ6世が、その欠点を克服して不得手を乗り越えて話す姿に、多くの国民は感動を覚えたのではないでしょうか。この映画のテーマがそんなところにあるのではないかという感じがします。
また、スピーチの内容的にも人を鼓舞して開戦するのではなく、相手の戦争への意志に対してやむを得ず戦争を始めるという苦渋の決断を、国民に伝えるというシテュエーションが、よどみなく話すのではなく時に言葉に詰まりながら話すスピーチにぴったりだったんだろうと思います。
主演のコリン・ファースの演技も素晴らしかったし、メインの3人がこの映画を盛り上げたのは間違いありませんが、やはり良い演出が最大のこの映画の良さだと思います。それが実によく現れているのが、それまで映画の中で音楽がまったく流れていなかったのに、クライマックスのこの時にまさに雰囲気がぴったりと合ったベートーベンの第7番第2楽章を流すという、素晴らしい演出に表れていると思います。映画の中で確か9分間のスピーチと説明されていたので、あの曲はそんなに長かったかなと思ってもう一度聞いてみたら、映画の中で流れていたこの曲は約3分(第2楽章全体は約9分)しかなかったので、多分部分的に繰り返していたのでしょう。実にうまい曲の選択だと思いました。
アカデミー賞を受賞する前から見たいと思っていたのですが、賞に先をこされてしまい、「とてもいい映画だ」と言っても、ただの追認だと思われてしまいそうですが、是非ご覧になるのをおすすめします。