「私、大人になりました?」SOMEWHERE ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)
私、大人になりました?
「マリー・アントワネット」などの作品で知られるソフィア・コッポラ監督が、スティーブン・ドーフ、エル・ファニングを主演に迎えて描く、人間ドラマ。
「貴方の、寂しいと思う瞬間は?」こう聞かれた時、私は瞬時に答える。「見知らぬ街で泊まったビジネスホテルで、シャワーの音が聞こえた時」無機質の極みともいえるビジネスホテル。そこで、誰かも分からない人間が爽快を求めて温水を撒き散らす。何やら自分がそこにいる事が馬鹿馬鹿しく、空しく思えてしまう。
頭の良い作り手がいじくり回して作った映画という印象が強い作品である。観客もいないサーキット場で一台、爆走する車。言葉の分からない国の、さっぱり分からないテレビ番組。部屋で空しく踊る、揃っていない踊り子。そして、先程述べたような空間。
あらゆる場面に、「孤独」や「空しさ」を象徴する要素を意識的に配置した懇切丁寧な物語。個々の作り手の思い出や、記憶を緩やかに繋ぎ合わせたような断絶感が漂う。
それでも観客を爽快な幸福感へと誘っていく不思議な魅力を持つのは、これまでにソフィア・コッポラという人間が作って作品に対して受けてきた批判をきちんと理解し、反映させてきた証だろう。「映像だけだろう」「何やら、分かりづらい」常にソフィア監督作品に付きまとってきた偏見。
今回は曖昧な人間の繋がりへの渇望に留まらず、終盤に描かれるヘリコプターと、古ぼけたタクシーの明確な対比などを通して「父と子の結びつき」への視点、未来への期待、自身の経験への反映など、多様な価値観を織り交ぜて描いている。
「これなら、どうかしら」比較的多作な作り手が、作を重ねる毎に観客へと挑戦するような意欲が作品を刺激し、進化を実感させてくれる。
映画人として成長著しい監督の、発展途上作品として位置づけるべき作品。この先、どのようなテーマで観客の予測を裏切ってくるか。「これなら、どうでしょうね?」この意欲が尽きない限り、彼女の映画界への戦いは終わらないだろう。
追いかけていく価値は、ある。