「森という舞台装置のすごさ」ブンミおじさんの森 ローチさんの映画レビュー(感想・評価)
森という舞台装置のすごさ
この映画の死生観はすごい。森には死者と生者が渾然一体となっており、人間の文明から遠く離れた世界が展開している。森に迷い込むことで方向感覚を失い、異界にさまようかのような感覚を覚えるような、映画全体もどこに向かうかはっきりと示さず、見ていると方向感覚を失いそうになる。はっきりと言えないが、極めてアジア的な感性で、西欧のフィルターを通さない土着的な感覚がある。日本の自然崇拝にも通じる畏怖の感覚にも通じるような何かがこの映画にはある気がする。森という舞台を映画でこれだけ深く掘り下げた作家はアピチャッポンだけではないかという気がする。森は実はかなりすごい舞台装置なのだと思い知らされた。森なら何が起きても不思議じゃない。この映画を見るとそういう気分になる。
後半の洞窟のシーンもすごい。地球の胎内とでも言うべき洞窟で、前世の記憶を見て、死んでゆくブンミおじさんの姿に生命の壮大な流転を感じる。すごい映画だ。
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