その街のこども 劇場版のレビュー・感想・評価
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運命的に出会ってしまった
オワコン扱いされるようになっても、予期せぬ出会いがあるのはテレビの良さ。
前の時間帯の番組が終わってそのままにしていて、たまたま見て釘付けになってしまう番組がある。
たまたまなので、準備なんかできているはずもなく、録画もしてないし、番組の始まりから数分はどんな話なのか把握できないこともある。
それでもある瞬間から引き込まれて見続けるような番組とは、運命的な何かを感じてしまう。
そう思ってきた作品の代表が岩井俊二監督の『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』と渡辺あやさんの『その街のこども』だ。
前者の話は今回は置いておいて、『その街のこども』は、震災でまったく別の種類の傷を抱えたまま神戸を離れた2人のこども(森山未來さんと佐藤江梨子さん)が、14年ぶりとか13年ぶりに神戸の街に降り立って運命的に出会う。これまで仕舞い込んできた自身の体験を互いに少しずつ言葉にし、相容れない者同士がお互いの立場や体験を受け入れてわかり合っていくというお話。
震災によって起きたさまざまなことを取材した上で書かれたであろうセリフを、芝居臭さを感じさせずに本人の言葉のように口にする2人が本当にリアルにそこにいる人に感じられ、画面から目を逸らすことを許さない。
そして、美夏(佐藤江梨子さん)が言う「不幸って法則がない」の言葉通り、この放送の1年2ヶ月後に東日本大震災が起きる。
あの地震の衝撃が少し収まってきたとき、ふとこのドラマが思い浮かんだけど、録画がないことも思い出した。以来なんだか無性にこのドラマをもう一度観たいと渇望してた。
結局、何年か後に再放送を観ることも録ることもできて何度も観たからか、劇場版は気づいたときには終わっていて、ついにようやく今回観られて本懐を遂げたと、そんな映画の感想にもなっていない一人語りですんません。とにかく心にぶっすり刺さってその刺さった何かを抜くことを許さないお話です。でも決して暗く辛いわけじゃなくて力強さもある。
阪神淡路から30年。新宿シネマートの特別上映は23日まで。間に合うならぜひ(今日は満席でした。予約もお早目が吉)
奇跡的な映画
僕の中ではあの「ソーシャルネットワーク」よりも好きな映画になってしまいました。生涯ベストと言っても過言ではない。まぁ僕の中ではの話ですが...
この映画のよかったところ且つ印象に残ったところは,1月17日の出来事を「震災」と呼ばず「地震」と呼んでいたことにあります。あの未曾有の大災害も,当時の怒りや悲しみも全て被災者にとっては日常の中に埋め込まれたものであって何一つ特別なものはないんだなと思いました。だからこそ平凡な「地震」という言葉で当時のことを指し示したんだと思いました。僕らがあの日見ていた震災は完全に「外」から見たものですから,本当に内側から見てた人たちのことなんか知る由もありませんよね。この映画はその「内側にいた人たちの思い」を映し出してくれたように感じました。
登場人物の感情移入もハンパじゃなかったです。あの二人が僕は好きで好きでたまりません。恋人でない男女2人が夜の神戸を歩き倒す様子も最高だったし。最初の居酒屋での無理して会話を弾ませようとする感じもわかるし,もう全部が全部最高の二人芝居でした。
映画としては歩き倒すだけのロードムービーで見せ場や盛り上がりがなくて,でも,合間合間のドラムの単音が個人的な生理に合致してたこともありとても心地よいミニマムさを醸し出していました。
このミニマムさがあってこそ,終盤ある人が手を振るシーンが最高に泣けました。映画に奇跡が起こったとさえ思えるシーンで涙が止まらなかった。東遊園地に近づくに連れて次第に人が多くなっていくのもまるで地震後の復興の様子を象徴するかのようで,もうその辺の映像全部で泣きっぱなしでした。
「また来年」というラストもよかった。来年も再来年も,二人はここに集まるんだろうけど,でも今年は行かないという選択をした中田くんにも思わず涙。泣けるんだけどそれは未来への希望が残されるラストだったからですよ。この映画が何で泣けるかって,悲しさとは全く異なる感情で泣かせるんですからこれはすごいことだと思います。
あんまり泣ける泣けると言っていたら期待値が下がると思いますけど,それでもいいから見に行ってほしいです。素晴らしい映画でした。
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