「ダメママのリアルな日常」Ricky リッキー Chemyさんの映画レビュー(感想・評価)
ダメママのリアルな日常
背中に翼を持つ赤ちゃんは「天使」か「モンスター」か?オゾン監督が甘いファンタジーを撮るはずがない。これは特異な赤ん坊を授かったことによって、変化していく家族の「リアルな日常生活」を描いた人間ドラマだ。
何よりヒロインである母親の弱さや愚かさが際立つ。彼女の刹那的な行動が、長女の心を深く傷つけている。シングルマザーとして工場で働く彼女は、「仕事に行きたくない」とごねたり、娘の迎えを忘れたりと無責任で子供っぽい。その上、その日に知り合った男と仕事中にトイレでSEXしてしまう始末だ。これらの行動は、貧しい日々の生活からの疲れや逃避から来る行動と温かい目で見てやれないこともないが、幼い娘目線で見るととても腹立たしい。朝起きると下着姿の母が男と朝食をとっているのを目の当たりにする娘の気持ちは・・・。「今日からこの人と暮らすから(今日からこの人があなたのパパよ)。」と言われて素直に納得する娘がいるだろうか?クローズアップされてはいないが、母親よりしっかりしている娘の奮闘振りが涙ぐましい。
さて、問題の翼を持つ赤ん坊リッキー(この名前も娘が名づけた)の存在は、見方によってずいぶんと違ってくる。バラバラになった家族を再生するために授けられた天使というファンタジーとして見るか、チキンの手羽先のような形態の生々しい翼の描写がホラーと見るか、それとも「障害」を持った子供を受け入れる家族の社会派ドラマと見るか。どの要素も少しずつ入っているのだろう。茶色い翼(チキンの手羽先から成長するとニワトリではなくまるで鷹・・・?)をバタバタさせて空を飛び回るリッキーはかわいらしいが、「モンスター」と呼ばれマスコミに追いかけまわされ、私利私欲を呼ぶやっかいな存在となる。これまた母親のうっかりから大空に姿を消したリッキーを、本当の意味で心配するのはやっぱり娘だけだ。リッキーが消えてしまってからが、オゾン監督が描きたかった本当のストーリーだと思う。娘と義理の父が絆を強めていく中で、母親は罪悪感でウジウジしている。そしてまたまた考えなしに自殺未遂を起こす。しかしここで奇跡的に目の前に現れるリッキーによって、彼女は母親としての責任感をようやく持つことができるのだ。こう考えるとやはりリッキーは天使だったのだろうか?
愛情ある絆を掴み取った家族、再び妊娠した母の幸せそうな微笑で物語は終わるが、今度の赤ちゃんにシッポとか生えてこないかと心配してしまうのは私だけではないはずだ・・・(汗)。