「【”人間を透明にする。”人間の皮を被った化け物達に感化され、気の弱い男が変遷していく姿を描く哀しく狂ったヒューマンドラマ。でんでん、黒沢あすかの狂的姿が物凄く嫌な気持ちになるトラウマ作品でもある。】」冷たい熱帯魚 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”人間を透明にする。”人間の皮を被った化け物達に感化され、気の弱い男が変遷していく姿を描く哀しく狂ったヒューマンドラマ。でんでん、黒沢あすかの狂的姿が物凄く嫌な気持ちになるトラウマ作品でもある。】
◆感想
・私事で恐縮であるが、私にとって劇場で観たトラウマ級の嫌な気持ちになった映画は、白石和彌監督の「凶悪」である。
リリー・フランキーが演じた”先生”と、その手下を演じたピエール瀧の姿に、鑑賞後に暫く椅子に座ったままで有った事を今でも覚えている。
そして、「凶悪」以降、白石和彌監督の快進撃が始まったのである。
・今作は、実在の事件を元にしたという点で「凶悪」と似ているのかもしれない。だが、決定的に違うのは、でんでん演じる凶悪者とその妻を演じる黒沢あすかの狂った化け物振りではなく、劇中で描かれるエログロシーンの数々である。自分達が殺した死体の脇でセックスする姿や、”透明にした”死体の一部でふざけて遊ぶ姿・・。
・良く、でんでんや黒沢あすかや吹越満、そしてこの作品の監督の妻である神楽坂恵は、あの嫌な嫌な役を演じ切ったモノだと思う。役者根性であろう。3.5と言う評点はこの方々の演技に対してである。
だが、この作品のそこかしこに、この作品の監督が持つ、自らが抑止しきれない狂気性や暴力性や、女性蔑視思想が見える気がするのである。そこが、白石和彌監督の作品との決定的な違いだと思う。
・偶々であるが、私はこの映画の監督を務めた人の作品は、今作が初鑑賞である。この監督の作品が余り一般的でなかった事と、評価が芳しくなかった作品が多数で、観賞を見送っていたためである。
・だが、今作の評判は知っていた。確か、評価は真っ二つであった。で、今作を観た訳であるが、【この作品はホラーの装いを被った哀しく狂った男のヒューマンドラマ】であると思う。
どこか、韓国の鬼才であるキム・ギドク監督作の幾つかを想起させるが、ここまでグロテスクではない。美術陣は頑張ったと思う。
<今作の見るべき点は、ホラー描写の裏側で描かれる人間の皮を被った化け物たちに感化されて行く、気の弱い男が変遷していく姿であると思う。
序盤の男の”家庭”の家族の会話が一切ない冷たい食卓シーンは、妻が全く手を掛けていない食事と、携帯で電話しながら食事中に出て行く娘の姿が描かれるが、最後半では、男は同じく携帯で電話しながら食事中に出て行こうとする娘を殴りつけ、追いかけて行って迎えに来た男の車に叩きつけるのである。
そして、男は黒沢あすかが演じる妻がでんでんが演じる男を”透明にしている”浴槽に、それまでは吐いていたのに、人が変わったようにそして、今まで抱えていた深い鬱屈を爆発させるが如く入って行きその妻を鈍器で殴り付けるのである。そして、警察を呼んでから妻を我が身に抱くが刃を突き立てられ、娘の前で首を掻き切り、事切れるが、娘はその姿を見て狂ったように嗤いながら、罵倒するのである。
今作は、人間の皮を被った化け物たちに感化されて行く、気の弱い男が変遷していく姿を描く、でんでん、黒沢あすかの狂的姿が物凄く嫌な気持ちになるトラウマ作品なのである。
尚、この作品の監督については、事実が不明瞭であるので、特に言及はしない。>