「人生を物語る走り。」アイルトン・セナ 音速の彼方へ ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
人生を物語る走り。
私もそうだが、とりわけF1ファンではなくても、その名を
聞いたことがない人は、私の世代では1人もいないと思う。
「音速の貴公子」アイルトン・セナ。
日本でも多大なファンを獲得し、今なお語り継がれている
F1レーサーのひとりである。
彼が活躍していた頃、ホントに日本はF1の大ブームだった。
プロストはもちろんだが、セナの映像やCMを何度も観た。
今作ではそんな懐かしい映像も流してくれるが…。
どうも映画ファンの私には「音速」と付くと「ライトスタッフ」が
いちばんに浮かんでしまうのだが^^;
今作で彼の軌跡を観ると、その代名詞が確実なものと判る。
とにかく走るのが好きで好きで、とにかく一番になりたくて、
一生懸命に、ひたむきに、頑張ってきた姿がそこにある。
決して巧い生き方をする人ではない。
もっと安全策をとり、周囲と巧くやり、カネと政治が絡んだ
世界を走ることもできたであろう彼が、絶対に自分の信念を
曲げず、どこまでも勝利へ突き進む姿勢には感動を覚える。
あぁ、だからこの人にはファンが多かったんだ。。
当時あんなにも、死を悼む人々が多かった理由も納得する。
顔もイケメンだが、その生き方が勇ましい。
彼と対照的なライバルとしてプロストを挙げ、彼らの歴史を
徹底的に見せているが、これが面白いのは、例えば会社内
でも、こういう人間的な違いを見せるライバルがいると思う。
正義感の強いセナと、世渡りの巧いプロスト。
どっちが良いとか悪いとかそういう問題ではなくて、彼らが
根本的に違う人種だというところにこの関係の面白さがある。
技術的にはどちらも申し分のないレベル。
自分なら、どっちの生き方を選ぶだろう。安全策か挑戦か。
果てない闘いののち、彼らはある意味の許容関係を得たと、
そう感じた矢先に悲劇は起こる。
本当に衝撃のシーン(当時この映像は何度も何度も流れた。)
であるのだが、しかし今作の流れでは、これは起こるべくして
起こった事故だろうともいえる。そしてその決断を下したのは
セナ自身であった。
この作品の素晴らしいところは、例えるとM・ジャクソンの
「THIS IS IT」に匹敵する、彼がその世界で輝いている
瞬間をきっちり映像で語っているところである。説明不要。
ドキュメンタリーに不可欠な要素が詰まっており、
彼の走りを観ているだけで、その生き様がハッキリ分かる。
セナのファンでなくとも、観て損はしない作品。
(彼の死以降、安全強化されたF1を彼はどう見ているだろう)