「事件らしい事件がない事が、事件なのかもしれない」まほろ駅前多田便利軒 全竜さんの映画レビュー(感想・評価)
事件らしい事件がない事が、事件なのかもしれない
『傷だらけの天使』から続く凸凹コンビの裏稼業モノを期待していると、請け負うヤマはどれも地味で淡々としており、物足りない。
オチャケ犯罪ドラマの系譜を漫才の歴史で例えると、松田龍平の先代である松田優作主演の『探偵物語』が現代漫才のパイオニア島田紳助・松本竜介ならば、今作の松田龍平・瑛太はダウンタウン通り越してスリムナイトのテンポに通ずるやり取りに期待感は戸惑いに変わる。
しかし、ビートの遅さに慣れ、ヤマの裏に複雑怪奇な人間模様が垣間見えた時、今作の真の醍醐味に気付く。
「事件らしい事件がない事自体が事件なのだ」と。
眠たいけど、退屈ではない緊張感は、主演2人の他に、犯人も被害者も警察も子供も関係無く関わる全てのキャラクターがどこか感情がズレているセンス。
そして、その全てが純粋なる親子愛に行き着く。
自分の居場所を求め、さすらい、結局、街に戻ってしまう感情は、親に愛を乞う子供の本能と表裏一体なのかもしれない。
では、最後に短歌を一首
『街角に 転がる契り(千切り) ノラは乞ひ 傷だけ宿し 振り向く夜に』
by全竜
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