「本質的にはドキュメンタリーでこその監督」玄牝 げんぴん 松井の天井直撃ホームランさんの映画レビュー(感想・評価)
本質的にはドキュメンタリーでこその監督
この監督さんの本質は、物語を構築するストーリー性の有る劇映画よりも、自分の感じるままに突き進む、この作品の様なドキュメンタリーにこそ向いているのではないかと思っている。
自然分娩を提唱する吉村正医院に集った妊婦さん達。此処へ訪れた多くの妊婦さん達が出産への不安を抱えながらやって来る。それぞれの思いを語る中には、旦那さんに逃げられてしまった妊婦さんも居り。その後のエピソードも描かれている。
多くの女性が経験する妊娠・出産とゆう、《命》とゆうバトンの受け渡し。吉村医師が言う「文化の異常…」に対するアンチテーゼを検証している様に見えた…始めの内は。
「でもこれって宣伝にしか見えないのでは…」
段々とそんな風に感じていた矢先に、映画は監督の感性がピピッと反応するかの様に、この医院にうつすらと漂う医師・助産婦さん・患者さん、それぞれの微妙なすれ違いを読み取り始める。
最終的には患者さん達全員を、安産へと導いて行く過程は同じなのだが。助産婦さん達は「先生は我々の意見を完全には汲み取ってはくれない…」。「独特の雰囲気に、妊婦だった妹は此処での出産を辞めた…」等の意見が出て来る。更には「個人個人で違った運動の在り方が在る筈なのに、全員が同じ様なルーティンになってしまっている…」等々。
おそらく女性として、そして第三者の目線として、監督自らが感じた疑問を直接ぶつけたからこそ。最後の最後に吉村医師の家庭内の出来事や医師本人の、「死ぬ事だって有る!」と普段は語りながらも、本当は患者さんの大事な生死を預かる事の不安感を、常に抱いている本音を引き出している。その事実が、この作品を傑作にまで引き揚げる事に成功しているのだと思える。
(2010年11月21日ユーロスペース/シアター1)