劇場公開日 2010年11月6日

「2010年最高の作品でした」玄牝 げんぴん grassryuさんの映画レビュー(感想・評価)

5.02010年最高の作品でした

2011年1月29日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

知的

難しい

幸せ

2010年観た中では最高の作品だと思います。

映画なのだから虚構があって当たり前。
嘘で嘘を塗り固め、歯に布着せて覆いかぶせることで極限までの美しさをたたえることに奏功した古典・名作。
愛や恋でいきつく暇も与えず、終わってみたらお涙ちょうだいだらけのラブストーリー。
ありもしない宇宙人やら幽霊やら亡霊をこれでもかこれでもかと出現させ、おどろおどろしさ全開で逃げまくるホラー。
つまらない嘘をタペストリーにして巧みにスライドさせ、そのはざまでうごめく真実をちらちらと垣間見せる、ひとひねりした心理ドラマ。
などなど、
みんなとっても大好きなジャンルだし、多くの感動をいただけたし、何回観ても泣いてしまう、単純極まりない僕なのですが…。

この映画いつもながらの河瀬作品で、全編これ事実!!!
ドキュメンタリーなのだから当たり前といえば当たり前なのですが、淡々と事実を映し、撮っていっています。

めくるめく現れる妊婦の方々の、みなさん笑顔また笑顔、その笑顔を心より愛おしんでいる吉村先生。
すべての出演者が真実を伝えているとはいいません。臨月ま近で苦しいお腹をこらえての作り笑顔もあったでしょうし、病魔に苦しんでいる吉村先生もその痛みを表面に出すことはありません。

事実の淡々とした羅列の連綿、にちらりとのぞかせる吉村先生と娘さんの相克、ご主人に逃げられ孤独な想いを湛えてお産村で出産を迎える若い妊婦さんの悲しげな独白(なんとストーリー中に新たな展開が!)、…。

事実が本心からなのかそうでないのか、虚構の予定調和の連鎖なのか、映画を観ている最中は、よくわからないまま、淡々とシーンがうつろいでゆきました。
そしてラスト、スタート直後に出現したコケティッシュで活動的なヤンママ妊婦さんが再登場、お産を迎え、…。

みんなきれいに河瀬監督にだまされていたことに気がつきます。
完成された、ドキュメンタリー「映画」です。

grassryu