一枚のハガキのレビュー・感想・評価
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新藤監督に一流の戦争批判
<映画のことば> どうするって、心配してつかあさいな。 戦争を呪うて生きていきますよ。 戦争によって、徹底的にその生活を踏みにじられてしまった友子。 反対に、戦争のなかでも前線には送られることなく、九死に一生の復員を果たすことができたが、出征中に家庭が壊れてしまっていた松山。 その対比が、本当に胸に切ない一本でもありました。戦争の「酷(むご)さ」というものは、こんなところにまで析出してしまうものなのでしょう。 何と表現すれば足りるものなのか、評論子は、その言葉を思いつきません。 ただ、戦争時代を暮らし、その意味では友子には忌まわしい想い出しか残らなかったであろう家屋敷を定造・三平の遺骨とともに焼失させ、その跡地を(ブラジルにまで足を延ばさずとも)麦畑という「生産の場」に生まれ変わらせたという本作は、戦争という破壊と、麦(農耕)という創造とを対比させたラストシーンに、新藤監督に一流の戦争批判が込められているのかも知れないとも思いました。 佳作だったと思います。 評論子は。 <映画のことば> 今日はお祭りですが あなたがいらっしゃらないので 何の風情もありません
妙に生々しいのが新藤流
水を汲みに行かせるのもすきなんだろうか?(『裸の島』もそうだった) 性についても、生々しい撮り方をするので、「昔ってあんなんだった?」とか思ってしまう。 戦争についての考え方は人それぞれあると思うが、生き残った人は強かさをもっていると思う。強かだったから生き残ったのだ。 セコい真似だろうが何だろうが生きるために出来ることをやったから生きている。 だから、息子の後を追って死んでいった義理の両親にはほんとに呆れる 当時、夫を失った妻はあんな形で新しい家族になっていったんだろうか?と想像してしまう。 監督も亡くなってしまったが、大杉漣も出演しており懐かしさがある
国策の戦争が個人にもたらした多様な不幸の一端を描いた力作
戦争という名目の下、国家命令によっていかに軽く人の命が失われ、また、生き残った人々にいかに不幸が多く取り残されたことか、痛切に鋭く訴える新藤兼人監督の力作でした。テーマが重いにもかかわらず、時にはコミカルな演出もあり、また、画面色調は比較的クリアで明るかったのが印象的でした。大竹しのぶは本当にいい女優さんですね。いい映画は人生の教師です。 若い人が、先のアジア・太平洋戦争の加害と被害の両方を頭に入れて本編のような映画を観て知ることは、戦争実態の真実の一部を知る上でも意義あるものと思いました。
シンプルは深い
黒澤監督にしろ新藤監督にしろ一流の邦画の監督の作品ってシンプルでそれこそ小学生でも話についていけるような気がする。それでいて引き込まれていく深みがあって見た後確実に心に残っているのは「良い体験をした」という感覚。今回もそれらの例にもれない作品だった。なのに100%満たされたかというとそうではないというのは、さんざん今時の刺激的で撮る側の野心に満ちた作品を観させられ続けている後遺症的な症状だと考えるが、あながち的外れではないだろう。豊川悦司が相変わらずセクシーでカッコ良いので見惚れてしまった。多分そこは監督の狙い通りなのだろう。
新藤兼人監督に拍手!
去年、NHKで「一枚のハガキ」を撮影中の新藤兼人監督の姿を追ったドキュメンタリー番組が放映され、以来ずっと見たいと思っていて、ようやく観る事が出来た。 今年の日本映画のベストワンはもう決まったと思った。 月並みな言葉だが、見事!と言うしかない。 中年兵士・啓太は、上官のくじによって生きて帰って来たが、妻は実父とデキてしまったという事実を知らされる。 「何で戦死しなかった?」 啓太の戦友の妻・友子は、夫とその弟、義父母を相次いで無くし、嫁いだ家に一人留まる。 「戦争を呪ってのたれ死ぬ」 そんな二人が“一枚のハガキ”によって出会い… 新藤監督の演出は静かながら、非常に力強い。 戦争への怒り、愚かさ、残酷さ、自身が体験した胸の内が画面からひしひしと伝わって来る。 これぞ反戦映画。 全てを失った二人だが、それでもたくましく生き抜こうとする。 そんな希望を感じさせるラストは、生命力と魅力的な人間像に満ち溢れている。 その姿は東日本大震災で傷を負った人々への何よりのエールだろう。 奇しくも僕は福島に住んでおり、今年、この映画を見れた事に何か意義を感じずにいられなかった。 新藤兼人監督の素晴らしい人間賛歌! 先日、本作品は来年の米アカデミー賞外国語映画賞への出品が決まった。 受賞は間違いないと確信しているが、是非とも世界の人々に新藤監督のメッセージを感じ取って欲しい。
一枚のハガキは名文です
ハガキの文面は美文、麗文ではない。しかし、夫を戦地に送り出した妻の心情を的確に表現した名文だ。 森川定造の出征は万歳三唱に送られてフレームアウト。白木の箱でフレームイン。 一兵卒の戦死はあっさりと表現される。それは国が人の命をいかに粗末にしたかということだ。 定造の妻の友子は次々と近親者を失う。戦争を呪って生きる。そして、のたれ死にする、と覚悟する。 定造からハガキを託された松山啓太はクジ運よく生き残った。 友子が戦争のために一人になったのが運命ならば、一枚のハガキによって啓太と結ばれるのもまた運命か。 友子は死のうと家に火をつけるが、それははからずも家とともに忌まわしき運命を焼き払い、新たな出発をすることになった。 クジ運よく生き残った啓太は友子と結ばれる。それは運がいいか悪いか、人生を終えるときに分かる。
生き残った人への労いの言葉にも聞こえる「あんたはなんで死なないんじゃ!!」
不思議な映像である。 友子が留守を預かるのは貧乏な農家で、畳の代わりにムシロが敷き詰めてある。自分が子供の頃も、まだそんな農家があった。ところが、この映画のムシロは小綺麗で、襖も障子も破けたところがない。友子が着ている藍染めも、むしろおシャレだ。 違和感を憶えつつも、この作品がリアリズムを追ったのではなく、その時代を様式美で描き、戦争なんてバカなことだと笑い飛ばす作品だと理解する。 長男、定造の出兵と戦死、続けて次男、三平の出兵と戦死。茅葺きの家をバックに繰り返される描写は不謹慎にも笑ってしまう。だが、これこそ98歳の新藤兼人監督の戦争への怒りの裏返しであり、戦争の無益さを嘲笑った表現ととれる。 「あんたはなんで死なないんじゃ!!」友子の怒りは、小さな村で懸命に生きる家族の叫びであり、戦死した人は誰もが大切な人を持っているということを改めて訴える。そしてこの叫びが、生き残った人に対する労いの言葉にも聞こえるから不思議だ。 友子を巡って、村の顔役、吉五郎と啓太が殴り合うシーンも面白おかしく描かれ、どうだ平和っていいもんだろうと監督が微笑んでいるかのようだ。 狭い畑が、黄金色に染まった麦の穂でいっぱいになる画面は、往年の名作「ひまわり」を髣髴させる。「ひまわり」もまた戦争に翻弄されながらも強く生きていく女の物語だった。 ユーモアを交えながらも、気迫のこもった演出で、たった一枚のハガキに込められた夫婦の情愛と、あらたな人生の門出が描かれる。
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