「アニメになっても、汚れはしないわ!」手塚治虫のブッダ 赤い砂漠よ!美しく ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)
アニメになっても、汚れはしないわ!
森下孝三監督が、堺雅人、吉永小百合といった豪華俳優陣を迎えて描く、人間ドラマ。
好奇心には、勝てなかった。日本が誇る漫画界の天才、手塚治虫の名作が原作、現代日本映画界を代表する俳優をこれでもかと贅沢に配した声優陣、外資系の配給会社の力まで借りてこぎ尽きた全国公開作品。様々に観客を呼び込む要素を盛り込んだ物語に、つい身銭を切って観賞してしまった。
その結果、言葉にできない切なさと、空しさに襲われている訳である。
小学生の頃に読まされた、よい子の伝記「お釈迦さま」をそのまま映像化してしまったような、一部の方々が満足すればそれで良いと言わんばかりの展開の悪さが全編を貫いている。
ブッダことシッダールタ王子が起こした奇跡、逸話の数々をとにかく数多く詰め込むことに全力が注がれたオムニバス映画のような違和感。そこに、いやに世渡り上手な奴隷階級の少年が辿る成り上がり物語が適当に差し込まれたようなお手盛り感覚。
丁寧な人間描写と、深い洞察が物語を豊かに耕していく手塚治虫の作品世界から、どうしてこのような乱暴かつ無作法な創造が生まれるのか。手塚の名前は、単に名前貸しの客寄せパンダの如き。本当に、作り手は原作への愛着を持って本作を作ったのか疑問視せざるを得ない。
恐らくは画力の弱さからくる、紙切れのようなぺらぺら人間の不自然な動きと疾走に呆れていると、唐突に現れる不思議に劇画の如く、丁寧に、愛情を込めて描きこまれた場面が戦闘場面の凄惨な死体だったり、神々しく輝くシッダールタ王子の奇跡だったりするんだから、もう笑うしかない。作り手の目的と高い意欲が、何処に向かっているのかが一目瞭然のトンデモアニメがここにある。
アニメになっても、血一滴流させず、汚れることを許さない天下の清純派を貫く吉永氏の見事なまでの女優魂。主役なのに、威厳も存在感もイマイチの吉岡シッダールタ。他の声優陣は、吉岡シッダールタの引き立てに全力投球で、味わい出せず。折角の豪華キャストも、これでは評価も批判もできない。
これほどまでに観客を楽しませる娯楽色を無視した超絶教育映画が、全三部作。果たして、完結まで描くのを観客が許してくれるのか、不安と不穏が既に色濃く作品を覆っている。
まだ、軌道修正はできるはずだが・・・大丈夫だろうか、この映画は。