「生きて勝つためには。」太平洋の奇跡 フォックスと呼ばれた男 ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
生きて勝つためには。
今まで描かれた戦争映画とはちょっと趣が違う、
映像や心理面でかなり淡々と進んでいく話である。
泥臭い軍人映画を想像すると肩透かしになるが、
これが実話のリアル、人間が思うことのリアル、
誰が好き好んで大量虐殺などしたいと思うんだと
今さらながら当たり前の人間性が前面に出された。
この物語の原作はD・ジョーンズという元米国兵に
よって書かれ、「敵ながら天晴」な抵抗力をみせた
大場大尉に敬意を示す内容となっている。
敗戦間近、サイパン島最高峰タッポーチョ山に潜み
米兵の捕虜や人質にならんと抵抗をみせる民間人と、
彼らを助けながらゲリラ戦を展開し続ける大場隊。
その闘いはのべ512日間。圧倒的に物資が不足した
山中で、なぜ彼らは生き続けることが出来たのか。
当時の誤った米国への畏怖は、今作も色濃く描かれ、
1人でも多くの敵を倒すことが目的。と言い放った
大場の命に対する解釈が変わっていく変遷が見事だ。
負けて生き恥を晒すくらいなら死んだ方がまし。と
敵地でほとんどの軍人民間人が自ら命を絶った時代。
決して投降はしない。という帝国軍人の誇りを守るも、
1人の無駄死にも許さず、時が来るまで抵抗を続ける。
実に頭の良い(元地理の教師)大場の闘いぶりが凄い。
とはいえゲリラ戦であり、多くは姿を隠しての生活、
投降を説得する米国兵とのやりとりも長々と描かれる。
英語が堪能で両隊の橋渡しをかって出る元木(サダヲ)
自身の子供のために説得をかって出る馬場(酒井敏也)
など、投降して生き延びることを推奨する人間もいたが
その多くは裏切り者!と称され、酷い仕打ちを受ける。
米国兵からみた日本人は、愛国心に満ち祖国のために
命を懸ける(米国もそこは同じだが)のと同時に、誇り
高く、悟れば自死を選ぶ侍魂が不思議に映っただろう。
今だから言える、できる、ことが当時は許されなかった。
日米双方からの描き分けは繋ぎを思わせ、やや不自然、
静かな戦争映画に物静かな竹野内豊は似合っていたが、
彼に個性が発揮されない分、大尉の貫録には今一歩。
実直な日本人像が色濃く描き出された作品だった。
(赤ちゃんを抱き上げる人間たちの笑顔が平和への第一歩)