「生きて、こそ」太平洋の奇跡 フォックスと呼ばれた男 ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)
生きて、こそ
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「愛を乞うひと」「OUT」などで知られる平山秀幸監督が、主演に竹野内豊を迎えて描く、壮大な戦争ドラマ。
太平洋戦争末期、サイパン島陥落を目前にして竹野内豊扮する大場大尉が率いる部隊は、降伏を拒絶し、森の中で必死の応戦を続けている。ここに、他の戦争映画との違いがある。戦争を前に、士気を高めた兵隊達が闊歩し、戦いに突き動かされていく高揚感はここにはなく、銃声、叫び、自決といった死の象徴が森林に充満している。敗北を前提にしたドラマとして始まっているところは、大和魂を勇猛果敢に描く作品とは大きく視点を外している。
その中で、この作品は何を描くのか。平山監督は敢えて、泣き叫んでも、どんなに卑しくても、胸を張って生きることを選んだ一握りの兵士、民間人を描く事を選んだ。
随所に描かれる「生への執着」は、観客に対して幸せな光を放つ。
序盤、破壊され尽くした家で、敵兵に取り囲まれながら必死に泣き叫ぶ赤ん坊がいた。
敵兵の陣地にあって、大場大尉の名を愛おしそうに呼ぶ中嶋朋子扮する一人の女性の目は、澄んで輝く。
そして、大場大尉を演じ切った竹野内の、美しいまでに真っ直ぐ、前を見据える大きな瞳。そのどれもが人間の可能性、未来を一心に信じる作り手の熱い思いが投影されている。
適材適所のキャスティングで描こうとした答えは、戦争の非情さであり、悲しさもあっただろう。だが、私にはもっと大事な答えが提示されていると感じられる。
「生きろ、どんなに汚くても、生きろ」
生きてこそ、この物語に出会えた。もう一度、強く生きたいと思わせてくれる、稀有な人間賛歌である。
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