太平洋の奇跡 フォックスと呼ばれた男 : インタビュー

2011年2月8日更新
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昨年5月のクランクイン前には、戦地サイパンを慰霊訪問。さらに、敗残兵や民間人を生き残らせるために孤軍奮闘した大場大尉の墓参りも行った。実際にサイパンのジャングルの中を歩いてみて、衝撃を受けたという。「いたるところに、おびただしい数の弾痕が残っているのを目の当たりにし、本当に逃げ場なんてなかっただろうなと思うんです。あの弾痕を見ただけで、当時の激しすぎる状況がよみがえり、銃声すら聞えてくるような戦りつを覚えました」

それだけに、1月13日に行われたジャパンプレミアで大場大尉の次男・大場久充さんと、実際にサイパンで戦った兵士のひとり・新倉幸雄さんがサプライズで登壇したのには驚いた。 「参りました、あれは。やめてくれよ、こういうのは(笑)って思いましたね。タイの撮影で、大場隊47人のなかに19歳の男の子がひとりいたんですよ。みんなで『若いねえ』って話していたんですが、年齢的にいえば新倉さんは彼に当たるんだ。よく生きて私たちに“戦争”というものを伝えてくださったな……。それに尽きますね」

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劇中では、テレビドラマ「不毛地帯」に続き、事務所の先輩である唐沢寿明と共演。唐沢もまた米軍から“サイパンタイガー”と呼ばれ恐れられた堀内今朝松一等兵を演じるにあたり、スキンヘッドにしてラヨーン入りした。現場で、「ゼロからの覚悟だね、タケ」と熱く語りかける姿が2人の強いきずなをうかがわせたが、互いに際立った役づくりはしなかったという。

「現場に行ってみて、とてもじゃないですが脚本に描かれている部分だけでは埋め尽くせないものが多かったんです。だから、現場で感じる気持ちはなるべく取り入れるようにはしていましたね。唐沢さんも『とにかく、やってみないと分かんないよな。頭で考えても、このシーンは分かるもんじゃないから』っておっしゃっていました」

撮影では大場大尉が憑依(ひょうい)したかのような立ち居振る舞いで、見事に“座長”としての役割を完遂した。「わが身をもって全力で戦い抜いた大場さんたちに心の底から感謝を申し上げたい」と訴える竹野内が、最も大切にしたシーンがクライマックスに用意されている。投降後、米軍のジープに乗りながら敵だった相手に対し「ただ無心に戦っただけ。私はこの島で、ほめられるようなことは何もしていません」と語っている。

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「脚本を読んでいて、非常に重要なシーンだとずっと思っていたので、セリフとして大切にしたいなと思いました。すべてが順撮りではなかったのですが、あの場面はスケジュールをうまく調整してくれて、最後に撮りました。そこにいたるまでのいろいろな気持ちが集約されていますが、余計なことは何も考えずに現場にいきましたね。大場さんの大尉として最後の姿だからこそ、すごく大事にしたいシーンでした」

今年、竹野内は不惑を迎える。今作を通して伝えたかった「日本人としての誇り」を、丁寧な演技で映画に詰め込み、新たな一歩を踏み出した。「とにかく学生さんや若い人たちに見てもらいたい」と願う気持ちが結実したとき、戦争という悲劇で命を落としたすべての日本人が、天国から“誇り高き後輩たち”へ喝さいをおくるに違いない。

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