太平洋の奇跡 フォックスと呼ばれた男 : インタビュー
竹野内豊が日本人に伝えたいこと
竹野内豊の約3年ぶりとなる主演映画「太平洋の奇跡 フォックスと呼ばれた男」が、2月11日に公開される。日米開戦70年特別企画として、元米海兵隊員ドン・ジョーンズが発表した「タッポーチョ『敵ながら天晴』大場隊の勇戦512日」を映画化。猛暑のタイ王国・ラヨーンでの約2カ月間にわたる撮影で、心身ともに実在の人物・大場栄大尉になりきった竹野内に話を聞いた。(取材・文:編集部、写真:堀弥生)
「こんな竹野内豊を見たことがない」。マスコミ先行試写会を終え、試写室を出てきた記者や編集者たちが口々にこぼしていたセリフだ。竹野内が演じた大場大尉は、太平洋戦争の激戦地サイパン島で、わずか47人の兵力で4万5000人もの米軍を神出鬼没な戦略で翻ろうし、“フォックス”と畏敬の念を込めて呼ばれていた。だが、当時の日本兵にあって「自決するより生きて戦うことを選べ!」という信念を貫き、終戦後の12月に戦没者を弔うべく軍歌を歌いながら投降したという史実を知る日本人は驚くほど少ない。
大場隊の戦いぶりに強い感銘を受けた原作者のジョーンズは、戦後に来日し取材を重ねて同書を書き上げた。あとがきには、「多くの人たちが、自分たちの父や祖父や叔父たちが国を守るために戦った精神について何も知りませんでした。もっと驚いたことは、その人たちがしたことに何の尊敬の念も払っていないことです。私は、このことをとても残念に思います」と記されている。竹野内をはじめ、同作にかかわったすべてのスタッフ、キャストが伝えたかったことは「日本人の誇り」だと断言できる。
本人は戦争に負けたということを恥じる気持ちでいるかわからない。でも、恥じる気持ちは知識の欠如だって。世界中の戦士のなかで、日本軍の兵隊は本当に優秀だった。その人たちが全力で戦った誇りを、決して忘れてはいけないんです」。そう語りながら、遠くを見つめるような眼差(まなざ)しで祖父との思い出を訥々(とつとつ)と話し始めた。「自分も子どものころ、おじいちゃんに戦争のことを聞いてみたいと思った時期があったんですよ。『おじいちゃん、戦争って怖いの?』とストレートに質問したら、『戦争か。そりゃ良いもんじゃないなあ。ははは』と笑って流されました。子どもながらに『これ以上、聞いちゃいけないのかな』と感じました。そういう経験って自分だけではなくて、聞きたかったけれども聞けなかった人っていっぱいいるはずなんですよ」
だからこそ、21世紀を生きる今の世代の日本人は、いつの間にかどこかに置き忘れてきてしまった日本人としての誇りを忘れてはならない。竹野内は、タイで共演した多くの日本兵役の若手俳優たちと接することで、あることを感じた。「自分たちのルーツをたどっていけば、どこかであの方たちの遺伝子であり、日本人としての誇りって眠っているはずだと思うんですよ。タイで一緒に過ごした兵隊役の役者さんたちって、すごく若かったんですが、日本人としての強いスピリットをもっているんですよ。だから、忘れているわけではないんだ。自分たちに備わっているということに、もちろん自分を含め気づいていないだけなのだと思いました」
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