「トルストイの本当の理想とは・・・?」終着駅 トルストイ最後の旅 マスター@だんだんさんの映画レビュー(感想・評価)
トルストイの本当の理想とは・・・?
トルストイが掲げる思想は決して四角四面なものではなく、自由奔放な考えの上に立っている。ところが美的な理想の部分だけが取り上げられ、弟子のウラジミールに代表されるように、いつしかトルストイを神のごとく崇拝し、屈折したかたちで独り歩きしてしまった。トルストイが顔に止まった小虫を叩き潰したことも、回りに口止めするほどの異常さだ。
自分の作品の権利まで放棄するトルストイの行動は彼の本意だったのか、この作品を観ているとトルストイ自身が大きなうねりに巻き込まれているような気がする。
遺書を書かせようとするウラジミールを敵視し、トルストイの愛をいまいちど勝ち取ろうとするソフィアは、ときに荒々しく、ときに優しく、また可愛い女であろうとする。愛されているのは自分であり、トルストイに必要なのは自分だけという絶対の自信も持つソフィアにはヘレン・ミレン以外考えられない。
三つ巴の関係の中に何も知らずに入ってきた助手ワレンチンはもうひとりの主役と言っていい。少しずつそれぞれの立場を理解し始めた純朴な青年は、渦巻く策略の中で何を信じればいいのか、誰に与したらいいのか大いに迷い翻弄される。
そんな彼に自由な愛とその考え方を突きつけるのがマーシャだ。物事に囚われず純粋に愛に生きる考え方は、ある意味、彼女がトルストイの理想主義をいちばん正しく継承しているといえる。
82才にしてトルストイは家を飛び出してしまう。自分を取り巻く環境や陰謀にうんざりした結果だ。
あてもなく小駅アスターポヴォ駅に辿り着く。
まもなく終わりを告げる愛と、新しく始まったばかりの愛、ふたつの愛を通してトルストイとソフィアの関係を知る手掛かりを得た。
p.s. エンドロールに投影される当時の映写フィルム。本人と役者があまりに似ていることに驚く。とくに、弟子のウラジミールと思われる人物とポール・ジアマッティはそっくりだ。