「少年の前途にわずかに光が差すラストだけが救い」ザ・ロード マスター@だんだんさんの映画レビュー(感想・評価)
少年の前途にわずかに光が差すラストだけが救い
なぜ世界は終末を迎えたのか、いっさい語られない。世界が崩壊するスペクタクル・シーンもない。あるのは色彩を失った世界だけだ。
漂流を通じて、父子の情愛だけにスポットを当てた語り口にはブレがない。
生き残った者のなかには、食べ物を求めて暴徒と化し、同類を襲って食料にする者も多い。道のりは険しい。ヴィゴ・モーテンセン演じる父は、「ザ・ウォーカー」のデンゼル・ワシントンのように屈強ではない。ごく普通の人間が辿るであろう運命が淡々と描かれる。神に祈る気力さえない。同じ終末を描きながら、この二つの作品のなんと違うことか。
オープニングのヴィゴ・モーテンセンがいい。やつれた顔に、恒に回りを警戒してきた鋭い眼光ができあがっている。既に長く危険な旅をしてきたことが容易に分かる。
生きることに怯え、頼るものは父しかいない少年、コディ・スミット=マクフィーの表情も豊か。
終盤、少年が父のもとを離れられない心情を、ほんの数分で描いたカメラと編集も巧い。
すべてが失われた世界で、人はなんのために生きるのか?
なんの答えも戻ってこない。
少年の前途にわずかに光が差すラストだけが救いだ。
コメントする