SP 革命篇 : インタビュー
波多野貴文監督が「SP」で目指したアクションの金字塔
「アクションの金字塔を打ち立てる」を目標に連続ドラマ、スペシャルドラマ、映画とステップアップしてきた「SP」が、3月12日公開の「革命篇」でついにクライマックスを迎える。「野望篇」に続きメガホンをとった波多野貴文監督は、連続ドラマから演出を手がける“生え抜き”だ。その経験とノウハウをすべて投入し、壮大なシリーズのエンディングを担った自負は持ちつつ、「まだ終わった感じがしていない」ともいう。「SP」のストーリー展開同様の意味深な物言い。はて、その真意とは…。(取材・文:鈴木元、写真:堀弥生)
ドラマ「SP」には、かねて気になっていたことがあった。スタッフ・クレジットに毎回、波多野監督と藤本周監督の2人が演出に名を連ね、さらに本広克行監督が総監督として加わっているのだ。いったい、どのような役割分担だったのだろう?
「連ドラは普通、1話を1人の監督が撮って3人くらいで回していきますが、『SP』は3人で1話を撮っていたんです。本広さんの下でそれぞれが得意なシーンや、台本の中で『これ、撮りたい』というものを撮る。そして、それぞれの話でメインというか、編集権を持つ監督がいるという非常に珍しい形をとっていました」
その斬新なスタイルが奏功し、深夜枠ドラマとしては異例の平均15.4%の高視聴率を記録。その後の展開を予感させるラストシーンからも、映画化への期待は大きかったが、スタッフ、キャストの間でもドラマの撮影中から話は出ていたという。そして、晴れて映画化が決まり、波多野監督がメガホンを託される。
「ドラマでは規制が厳しくてできないこともあったので、映画になったときにやろうという話は、けっこうありましたね。(映画化に際しては)自分たちが撮ってきたモノですし、キャスト陣も一緒ですから、プレッシャーというよりは楽しみというか期待感の方が大きかったですね」
映画は「野望篇」「革命篇」の2部作で、さらにその間を3月5日オンエアのスペシャルドラマ「革命前日」がつなぐ。確かに「野望篇」は壮大な“前フリ”で、製作の亀山千広氏が「ちょっと突き放しすぎじゃないか?」と言うほどの渇望感をあおる形で終わったが、「革命篇」は一転、何げない日常の描写から始まる。実は、原案・脚本の金城一紀氏がもともと描いていた構想だという。
「SPメンバーのプライベートも描きたいというのがあって、台本が3部作のようになっていました。新しい試みかもしれませんが、2時間ドラマでいえば『野望篇』がつかみの30分、『革命前日』がその後の30分で序破急の破、後半の1時間が『革命篇』という1本の作品なんですよ、本当は」
映画版で目を引くのは、やはりアクション。『野望篇』で、主演の岡田准一が渋滞している車列を飛び越えていく描写などは、映画ならではの迫力。『革命篇』でも国会記者クラブでの格闘など、随所に見せ場が用意されている。波多野監督も、岡田がインストラクター資格を習得したフィリピンの格闘技カリを一緒に習うなど、そのこだわりは徹底している。
「アクションに対して秀でた知識を持っているわけではないので、金城さんが(台本上で)構築したアクションに、岡田くんの考えが加わり、さらにドニー・イェンのスタントダブルをやっていたアクション監督の大内貴仁さんの見せるアクションが入る。リアルなアクションと見せるアクションを組み合わせて、まとめるのが僕の仕事でした。新たなものが見せられるといいなと、皆で話し合いながらやっていました」
一方、「革命篇」の主要舞台となるのが、堤真一扮する尾形らテロリストが占拠する国会議事堂の衆議院本会議場。リアルに再現された巨大なセットは、演出意欲をかき立てるのに十分だった。
「美術部やVFXチームを中心に何度も見学に行き、壁紙の艶の感じとか木目の質感などものすごく精巧に造られていたので、もうワクワクしましたね。堤さんもでき上がったときに来られて、自分の立つ位置でずーっと思いを巡らせていました。自信をもって見せられるセットです。撮影では、最初は観客の皆さんが見慣れたテレビ中継のような感じにし、徐々に人物に寄り添っていこうと思って組み立てました。いかに広さを出すかも注意したところですね」
ほとんど人が動かない状況下で緊張感がみなぎる議場、その成り行きをテレビ中継で見ているキャリア官僚たち、そして事態を打開するため議事堂内で奮闘する岡田扮する井上ら警視庁警備部警護課第四係の面々。それぞれに異なる局面を絶妙の配合でテンポ良く見せていく。ドラマからキャストを見続け、信頼関係を築いてきた集大成にふさわしい演出が光る。それだけに、“3部作”で8カ月に及ぶ撮影が終了した時点でかなりの手応えを感じていたようだ。
「金城さんの台本がすごく繊細で、キャストも設定、自分の役割がよく見えていたと思う。だから、最初に出会ったときから皆が同じ方向を向いていたので、チームワークはできていました。岡田くんのクランクアップのときに、撮り切ったという達成感がすごくあって、泣いて抱き合ったのをよく覚えています。僕の最終日には、(四係の)皆が来てくれて、本当にビックリしました」
そのときに胴上げされるサプライズもあったそうで、監督みょう利に尽きるというものだろう。そして、「野望篇」は興収36億円を超えるヒットとなり、いよいよ「革命篇」が公開。「『SP』っぽいよね、のひと言になっちゃうんですけどね(笑)」という締めくくりに関しては言及できないが、さまざまな“「SP」らしさ”が施されている。
「(映画館の)ロビーに出てきて、『良かったね』『つまらなかったね』で終わるのではなく、その先を想像したり討論してもらいたい。『SP』はここで終わりではなく、観客の皆さんと一緒に育っていく途中。僕は独身なんですが、わが子がまだ成長過程のような感じなのかなあ」
3年余にわたって愛情を注いできた「SP」が巣立ち、成長して、将来的にはアクション表現におけるひとつの標準になってほしいという強い思いから出た言葉だ。
「『SP』が起点になって、『SP』のアクションを超えてみない? というふうになったら面白い。そうなれば、僕たちが目指したアクションの金字塔は成功かなあと思う。僕自身も、次のステップにいきたい。アクションなら、“守りのアクション”はこれだけやったので、今度は“攻めのアクション”をやりたい。やりたいことはいろいろで、すごくある。そうとしか言いようがなんです」
わが子の成長を見守りつつ、自らもさらなる夢を描く。周囲の関係者は波多野監督を評し、「思った以上に頑固」と口をそろえる。柔和な表情からは想像しづらいが、いいものを生み出すためには決して妥協しない、確固たる意思のようなものが言葉の端々にうかがえた。