BOX 袴田事件 命とはのレビュー・感想・評価
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冤罪の恐怖
未だに収監中の死刑囚袴田巌※1 …いわゆる《袴田事件》に対して、真っ向と“冤罪だ!”と主張する本作品。力作です。
最近では『それでもボクはやってない』が記憶に新しい、冤罪問題に取り組んだ社会派の本作品。
古くは今井正監督の『真昼の暗黒』や、熊井啓監督の『帝銀事件・死刑囚』等の名作が有りました。
今回の袴田事件に対して、敢然と冤罪事件として全編で警察側の非を糾弾する姿勢は、『帝銀…』に近い物が在ります。
2・26事件を経て、玉音放送〜昭和天皇崩御で終わる昭和の歴史を背景に、萩原聖人演じる裁判官熊本典道と、新井浩文演じる死刑囚袴田巌が、対照的な立場として描かれて行きます。
その際たる場面が冒頭近くに有る。2人が列車に隣り合わせて、東京へ上京して来る下りでしょうか。その2人が、あの時の事は気付かぬ様に《裁判官》と《被告人》とゆう立場で、法廷で顔を合わせる。
当時の曖昧な供述調書を基に脚本が作られていますが、映画はこの事件が完全な冤罪だ!…として描かれ、1人の死刑囚を生んでしまったと苦悩する裁判官。
「自分の方が殺人犯なのではないのか?」…と。
当時の司法制度そのものにも問題は在ったのでしょうが、人が人を裁く矛盾を鋭く抉る内容です。
調書を冷静に分析する、萩原とは対照的な裁判官の1人として。出番は少ないのですが、保坂尚希が登場して、激しい意見交換がなされます。
慎重に判断して、“疑わしきは罰せず”の萩原に対して。他に疑わしき人物が無い際は、真っ先に“疑わしき人物を罰せよ”の態度を主張する保坂尚希。
観客側は、数多くの矛盾を突き付けられた後の為に、保坂の態度に対して完全に悪役的な匂いを感じて観てしまう。
映画本編が《冤罪事件》として描いたいるので、当然なのですが。一方で保坂尚希の考え方自体にも一理は在る。お互いに犯罪現場をリアルタイムで観ていた訳では無く。保坂はあくまでも調書を証拠として採用している限り、“それに基づいて”の言動にしかすぎない。
熱い萩原聖人に対して、この保坂尚希の冷たい裁判官は絶品の演技だったと思います。
保坂以外にも、石橋凌や大杉漣:ダンカン等の脇役陣の悪役っぷりも素晴らしく。この悪役達の人物像によって、映画はエンターテイメント性すら持ち合わせる構図になっていた。
カメオ出演の國村隼の使い方には、ちょっとニヤリとしましたね。
ところで、監督の橋伴明ですが。ご存知の様に女優の高橋恵子と結婚後は、彼女の影響からか、宗教的な作品が多くなって来た様に感じる。前作の『禅』に続いてこの作品では、一見すると宗教的な物は無い様に見えますが、新井浩文が十字を切る場面や、萩原が苦悩する場面。そして駅のプラットフォームや、萩原と新井が最後に雪の中を走り出す場面等の描き方に、どことなく宗教的な匂いを感じました。
かなりの力作で見応え充分だったのですが、時代考証に対してところどころでおかしなところが在りました。例えば静岡警察署の外観やトイレ。また大学で萩原が講義する場面の学生の着衣等で、昭和40年代には有り得ない箇所が見られるのは、とっても残念なところでした。
また、萩原が再審棄却になったのを知り、家庭内で暴れ出す場面も、個人的にはやりすぎな演出に思えました。
どうでも良い事なのですが、萩原の奥さん役が葉月里緒奈だったのに気が付いたのは、映画が後半に入ってからでした(汗)
※1 その後冤罪が晴れ、無罪判決を勝ち取ったのはご承知の通り。
(2010年6月5日ユーロスペース/シアター1)
見なくてはならない映画
袴田事件という名前は聞いたことがあっても
その内容までは知りませんでした。
この映画を観て一週間は頭から離れませんでした。
作中の警察の拷問が酷すぎて
新井さんの拘禁症状の演技がリアルすぎて
観ているのが辛くなる程でした。
そして何より、拷問をしていた刑事は老衰し、袴田さんは未だに牢にいること。
その長年に渡る牢獄の記録がギネスに認定されていること。
これ程腹立たしいことはない思います。
誰しも年老いれば死ぬのは仕方のないことですが、腑に落ちません。
ギネスになんて載せる前に冤罪をかけられた袴田さんを救う方法を考えろよって思ってしまいました。
今でも牢獄の中で袴田さんが辛い思いをしているかと思うと見終わった後も気持ちが沈んでしまいますが、
裁判員裁判を取り入れている日本ならこういう事が2度とないように日本人皆が観るべき映画だと思います。
怖い …そして何思う?
執拗な取調、私情に絡め取られる裁判官、マスコミと馴れ合う警察…。再審請求が繰り返しされているものの、一応結審しているので、裁判の結果を尊重したいが、映画に描かれていることが真実であれば、あまりに不条理で、あまりに恐ろしい。基本的には死刑肯定の立場であるが、冤罪のことを考えると、死刑という判決の重さに思考が鈍くなる。
裁判について語る前に、真剣に見てほしい映画である。
袴田死刑囚側からの映画なので、検察側の証拠のいかがわしさに対して、もう少しツッコミ、もう少し検証をしていくのかと思ったが、あまりしつこくなく(少し肩すかし)、好感が持てた。生命とは、死刑判決を下すこととは、…そのようなことを考えさせるために、映画の終盤では心象風景の描写が増えてきたのが少し冗長であった。
敢えて向き合う覚悟が必要です
フィクションではないので、ハッピーエンドなどの期待はしない方が良いと思います。しかし、そう遠くない過去でこのような捜査が行われていたこと。また人の一生をこんなにも台無しにしてしまった事実を直視する良い機会になると思います。
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