「白夜行」白夜行 totokoさんの映画レビュー(感想・評価)
白夜行
東京国際映画祭にて鑑賞。
驚いた。
二時間半近くの時間を感じなかった。
しかし、おもしろかったからでも、引き込まれたからでもない。
まったく心が動かなかったからだ。
『感想がない』のである。
ここで難しいのは、面白くないという感想もないということだった。
ディテールにこだわった映像や、脇役に至るまでの過剰になりきらない演技、昭和の、あの頃の時代考証と、いずれもよかったと思う。
しかし、それだけだった。
『心が動かない』というのは、作品として「面白くない」ことよりも、もっと致命的で、失敗作といえるのではないか。
しかし、先に書いたようにパーツはよかった。では、なぜそうなったのか。
監督は当日の舞台挨拶で、
「作品にとても魅了された。東野圭吾さんという作家、ではなく、深川という作家が、白夜行という原作を受けて、僕の切り口でお見せたかった」
と語った。
これが原因ではないか。
映画のストーリー展開ではないのだ。
とにかくストーリーにメリハリがない。淡々と、静かに進んでいく。
いつおもしろくなるのかと思いながら見ていたら、そのまま映画が終わってしまった、という印象だった。
それは、時系列に忠実に描きすぎてしまっていることが原因ではないかと思う。
もう一度いいたいが、これは映画なのだ。
原作は、文字を追い、映像や音といった五感を自分の想像力で補いながら物語を読み進めていく小説である。その間、読者は、小説と重厚且つ濃密な関係を築いている。そこに時間の制限はなく、理解ができなかったならば、何度も戻って読み返すことができるのだ。
しかし映画は、視覚と聴覚をメインとしているが、時間的に制約がある。つまり、小説とは対極に当たる表現方法なのだから、小説と同じアプローチでいいはずがない。
素人ながら例を挙げるとするならば、出だしから雪穂の夫と元刑事の笹垣との会話から始まってもいいかもしれない。
もしくは、笹垣が亮司の母が営む場末のバーで話しているシーンでもいいかもしれない。
刑事である笹垣が、公に容疑者にもなっていない雪穂を追い続けているという現在から、その理由を過去の事件と共に回想し、その事件には常に雪穂の影があった事を明らかにしていく。やがて事件の真相に気づくという展開などにはできなかったのだろうか。
どこか作り物のような、得たいの知れない美しさを持つ雪穂という女性は掘北さんに、決して表に出ることはなく、影ながら雪穂を支えてきた亮司という男は高良さんに、お二人ともとても合っていた。
二人を確実に追い詰めていく笹垣刑事役の船越さんもすばらしかった。
亮司を愛したあの女性も、二人の子供時代を演じた俳優二人もすばらしかった。
私は、東野圭吾の白夜行という小説を、深川監督がどう「映画」にするのかが見たかった。
残念だといわざるをえない。