「2と3、二作で一つの作品として評価すべし。」ミレニアム2 火と戯れる女 とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)
2と3、二作で一つの作品として評価すべし。
第2作で強いられたもやもやが、第3作で反転、祝杯を挙げたいほどスカッとする。
そりゃそうだ。元々前編後編で作られたテレビドラマを、第1作のヒットで慌てて2と3として映画に仕立て直した作品。だから、第2作は続きものとして終わり、第3作で散りばめられたフラグが回収される。両方を見ないと評価できない。
第2作・第3作にも衝撃的なシーンは出てくるが、大1作目に比べるとインパクトや切り込み方が足りない。重厚さとか、緊張感の持続の質も変わっている。映画と言うより、テレビドラマみたいに、より万人に受け入れやすくなっている。って、第2作と第3作はもともとテレビドラマとして制作されたもの!
そんな客層に配慮した造りのせい?監督が変わったせい?
それだけではなく、巨悪のスケールはアップして、全容が見えにくくなっている。第1作は、ある一族の中で起こった、ある個人の狂気による犯行だった。けれど、第2作・第3作で暴かれていくのは、社会の中に忍び込んだ巨悪。関わる人も半端なく多くなっていく。そこに巻き込まれたリスベットの生い立ちや、その巨悪の汁を吸い、巨悪を隠れ蓑にして、人の尊厳を踏みつけにする奴らが描かれる。だから、しっかり筋を追っていないと、物語の中に拡散してしまい、表面的にあぶりだされる悪だけに目が行ってしまい、物足りなくなる。
なんて物語を作ったんだ、原作者は…。驚嘆しかない。(原作未読だけれど)
多少の協力者は出てくるものの、これでもかと孤高・孤独の闘いに身を投じるリスベット。
第1作で、ミカエルとリスベットの関係性のファンになってしまった身には、歯がゆくして仕方ない。なぜこれほどまでに、孤高の、孤独の闘いを貫こうとするのか。第2作でも、その理由の片りんは出てくるが、第3作ですべてが繋がって明らかにされる。第2作では、まだもやもやの中。
『ミレニアム』の醍醐味は、人の関係性をちゃんと描いているところと、おのずと暴き出される社会悪。
第1作ではこの塩梅が見事だった。それでいて結末はまさかの展開。心も凍る事実の後での清々しい風。
でも、第2作では後味の悪い終わり方。リスベットがネズミのように動き回る姿を追いかけ、最初に出てくる人身売買もどこに行っちゃったの?という展開。
それが、第3作で回収。リスベットの生い立ちそのものが巨大な社会悪の証明であることが暴かれていく。そのあとに吹く、新しい風の予感。
と、第3作に良いとこどりされた、心に残るメールとか、ご本人がご本人役で出演とか見どころはありつつも、フラストレーションがたまりにたまる第2作という作品。
両方通してみると、第2作がこんな風に作られたからこその、第3作の爽快感と評価したい。
とはいえ、
尖ったリスペット。第1作ではその活躍がスカッとした。普通の感覚で言ったら、絶対に人から信頼されない風体・言動。それを自分でも自覚しているからか、サクッとナイフで断ち切るような言動が、安易に触れると刃で傷つけられるような、そう、野生のピューマみたいな女だった。誰にも媚びない。だからこそ、長く付き合えば得られる信頼感。
でも、人は見かけで判断する。自分に心地いい言葉を欲しがる。
そんなリスベットと、表面的なことに惑わされないミカエルとの距離感も愛おしかった。
第2作ではリスベットの秘密が徐々に見えてくる。
人を寄せつけず自立。意に反して人を巻き込んじゃうけれど、自分の危難には人に助けを求めず。
相変わらず格好いいのだけれども、刃的な狂気の部分が減じてしまった。
ランボーばりの不死身さはこれでもかと見せつけてくれる。過酷な過去と、思いもよらぬ冤罪に巻き込まれても、頑張る女性という、ほかの映画にもあるような女性になってしまった。
昔のいじめっ子に出会って、うろたえる部分はかわいくて人間的な魅力は増すのだけれど。
(リスベットのコスチュームは、意外に実用重視。第3作目をみると、彼女のパンクのような服装って対人戦闘服=ヤマアラシだったのねと納得)
原作未読。原作でもこうなのかな?
映画の展開では、あの人は兄ちゃんでなくともいいし。父の畜生ぶりを表現しているのだろうか?
映画としてみると、第1作と第2作では切れ味が違う。繊細さが違う。映画の時間的都合で仕方がないのかもしれないが設定が活かしきれていない。何度もピンチに襲われるけれど、第1作でミカエルを襲った大ピンチより、緊迫度が緩い。
2,3作だけ見ると☆5つ!と思うけれど、第1作を見てしまうと☆4つ。
それにしても、
シリーズ化をしてほしい作品なのに、原作者が新作仕上げる前にお亡くなりになり、一番の理解者は事実婚だったから相続権持てなくて新作仕上げることが多分不可能だと聞く。
かつ、ミカエル演じていらしたニクヴィスト氏もお亡くなりになった。ハリウッド版を見ていないけれど、私にとって、実直さと優しさ、それ故に傷つけてしまう鈍感さを併せ持つミカエルはニクヴィスト氏以外には考えられない。
こんな面白い作品の続編がもう見られないなんて悲しい。
こんなにひきつけられる話を残してくださってありがとうございます。
原作者とニクヴィスト氏のご冥福をお祈りいたします。