「答えは、要らない」クレイジーズ ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)
答えは、要らない
「サハラ/死の砂漠を脱出せよ」を監督したブレック・アイズナー監督が、ティモシー・オリファントを主演に迎えて描く、ホラー作品。
漫画「ドラえもん」の一編に、何とも不気味な作品がある。その道具を間違って使ってしまうと、使用した人間を見た他人が唐突に「いつもは隠していたけれど」と嫌悪感を示し、怒り狂って襲い掛かってくるという物語。道具の名前は忘れてしまったが、何とも言えず漂う気味の悪さ、改善する事を拒絶する物語の不条理感は、今でも心に深く残っている。
なんて事を思い出したのは、観賞した後に黒く、黒く残るイヤラシサが、その「ドラえもん」の一編にひどく似通っていたからだろう。観客は、冒頭からこの作品に対して明解に理解する為の要素を与えられない。そこに、本作の薄気味悪さが立ち上がってくる。
感染源は何ですか?・・・飲み水です。感染者は、どうなってしまうのですか?・・・「不安定」になります。一体、この現象の原因は?・・・ええっと、「細菌兵器」みたいなものです。
何を倒すか、何を手に入れれば良いか。誰が、感染したのか。大半のゾンビ映画において観客に提示される物語の指針に、本作では徹底してモザイクが掛けられてしまっている。これでは、世界を救う正義のスーパーヒーローも登場するタイミングを見つけられないままにゲームセットである。
この掴みきれない曖昧な世界観、不条理感を漂わせたままにモヤモヤと終わっていく物語。まさに、理解不能な社会、改善の手が打てない現代異常時代を象徴するために、制作される必要に迫られた作品に思えてならない。
洗車マシーン、ショッピングセンター、静寂の農場に、倉庫。ロメロ作品に多く持ち込まれる恐怖の舞台も取りこぼす事無く配置され、絶叫ホラーとしての完成度も高い本作。知らされること無く、抵抗する間もなく、誰かに支配されていく恐怖、違和感、絶望・・・他人事には思えない現代に、この作品は不気味に寄り添い、私達を嘲け笑う。