「64歳のシェールが最高にいい女」バーレスク DOGLOVER AKIKOさんの映画レビュー(感想・評価)
64歳のシェールが最高にいい女
ミュージカル「バーレスク」は、制作費5,5ミリオンドル。ミュージカル映画として 史上最高のお金をかけて製作された。映画の中で歌われた新曲10曲のうち、8曲は主役のクリステイーナ アギレラ、あとの2曲が準主役のシェールが歌い、映画の公開とともにアルバムがリリースされた。
なかでも、シェールの歌った「YOU HAVEN'T SEEN THE LAST OF ME」は、2011年のベストオリジナル曲として、ゴールデングローブ賞を獲得した。
ストーリーは
アイオワの小さなバーで働くアリ ローズ(クリステイーナ アギレラ)は ケチで2ヶ月も給料支払いを遅らせているオーナーに腹を立てて 売上金を奪ってロスアンデルスに出てくる。しょぼいホテルを根城にして 新聞広告を頼りに仕事探しに明け暮れる。ある夜 バーレスクに迷い込み、長いこと自分が夢見てきた歌とダンスが繰り広げられる舞台に出会って 自分の生きる場所がここにしかない、と決める。しかし店のオーナー テス(シェール)は、飛び込みの田舎娘など相手にしない。アリは バーテンダーのジャック(カム ジナンデール)に頼み込んで ウェイトレスとして 働き始める。
アリは、ウェイトレスをしながら ショーガール達の歌と踊りを憶えるうち、ダンサーの一人に欠員が出たときには、その日のうちに代役ができるまでになっていた。やっとアリは自分の歌とダンスの実力が認められて ショ-ガールの一員に加えられる。親も兄弟もないアリにとって、バーレスクで働けるようにしてくれたオーナーのテスと、マネージャーのショーン(スタンレー ツチ)は、親代わりのような恩人だった。しかしアパートを提供してくれているバーテンダーのジャックだけが、アリの片思いで、愛情に答えてくれない。
一方、かつてはバーレスクの歌姫だったオーナーのテスは、古くなったバーレスクを持ちこたえる為の資金難に直面していた。店の権利を新事業家マルコス(エリック デーン)に売り渡さなければならない危機にあった。事業家マルコスは ジャックの煮え切らない態度に心揺れ動くアリを自分のものにして バーレスクも買収するつもりでいた。しかし、アリはテスとともに ライバルの事業家を取り込んで 債権を返し店を売らずに維持していくことにする。待ちに待ったジャックも ようやく自分が作曲した曲をもってアリに捧げて、やっと二人は 二人の気持ちを伝えることができて、、。というお話。
65歳になろうとしているシェールの網タイツ姿で踊り 歌う姿が素敵。そして、ゴールデングローブを獲った歌「YOU HAVEN'T SEEN LAST OF ME」をたったひとり 誰もいなくなった舞台でしみじみ歌うシーンが良くて泣ける。これが 他のどの歌よりも良かった。疲れたら 家に篭ってこの曲だけを繰り返し聴いて涙を枯らして 手負いの虎が 傷をなめて自分で治すようにして過ごしたい。この世の全ての悲しみを代表して歌ってくれているようだ。素晴らしい。
シェールは チェロキーインデアンの血が半分流れているから エキゾチックな顔立ちで、素晴らしい体形をしている。1960年代「ソニーとシェール」でデュエットで歌っていた頃は 反逆 反抗のシンボルだった。当時はベトナム戦争反対運動のさなかだから、ボブ デイラン、ジョーン バエズ、サイモンとガンファンクル みな抵抗の歌を歌っていた。彼女は歌だけでなく女優としても成功し、1987年には「月の輝く夜に」でアカデミー賞主演女優賞をとっている。1998年 シングルアルバム「BELIEVE]の大ヒットで グラミー賞を受賞。2000年以降、ワールドツアーを開催して、成功を収めている。何しろ40年余り 踊り歌い続けてきた人だ。ワールドツアーで シドニーに彼女がきたとき、超セクシーな姿で歌うのをみて、「彼女はバケモノではないか、同じ人間とは思えない」とオットはのたもうた。
主役のクリステイーナ アギレラは この映画を撮影収録していた頃は 幼い男の子を抱えるシングルマザー(別居中)だった。それを1日18時間歌って、踊るという 過酷なスケジュールのリハーサルを 几帳面にまじめにやり通した 根性のある立派な歌手だ。ちいさな体だが、ばねのように強い筋肉 激しい踊りとパワフルな歌声。体の造りが全く肉食動物。何百世代も肉だけを食べてきた人種のパワーに圧倒される。米食の日本人のパワーをはケタが違う。
ミュージカルといえば 一番良く出来たミュージカルは ライザ ミネリの「キャバレー」と、キャサリン ゼタ ジョーンズの「シカゴ」だと思うが、それにこの「バーレスク」を加えたい。3つとも1分のスキもない、2時間あまりのスクリーンの間中 ボリュームたっぷりの歌と 動きの激しいダンスとで、最高のエンタテイメントを提供している。
「キャバレー」は1972年ボブ フォッセー監督の作品。ジュデイー ガーランドの娘 ライザ ミネリが 駆け出しからショーガールとして 脚光をあびるまでのサクセスストーリーだ。彼女が 黒いシルクハットにタイ、黒タイツで ダイナミックに踊る姿は迫力があった。これで彼女はその年のアカデミー主演女優賞をとった。映画の中で 彼女はプロとして輝かしいショーガールになるために それまで支えてくれた 貧しい恋人マイケル ヨークと別れなければならない。ライザ ミネリが大きな目で 男と一瞬見つめあい そして、クルリと後姿をみせて 手でバイバイをするラストシーンに、こらえていた涙がどっと出る。忘れられない名シーンだ。
「シカゴ」は2002年 ロブ マーシャル監督、マーテイ リチャード製作 これでマーテイ リチャードは アカデミーベスト映画賞をもらい、キャサリン ゼタ ジョーンズが アカデミー助演女優賞をもらった。このときのキャサリン ゼタ ジョーンズの歌と踊りは素晴らしかった。
オーストラリアのABC(日本のNHK)が出版した「死ぬまでにあなたが観なければならない1001本の映画」をいう本の 背表紙が ゼタ ジョーンズのこのときの踊る姿だ。1001本の映画について書かれた本の背表紙に選ばれるくらいだから 彼女のオカッパ髪、黒タイツに高いヒールで堂々と踊るシーンは 圧巻。記録に残るシーンだった。
ちなみに この本の表表紙は、アルフレッド ヒッチコックの「サイコ」だ。アンソニー パーキンスに殺される女の あの有名なシャワーシーンだ。
「バーレスク」とにかく楽しいミュージカルだ。ゴージャスなショガールが踊って歌う姿は けなげで パワフルで美しい。観て損はない。