「観る前にFacebookを始めよう」ソーシャル・ネットワーク アラン・スミシーさんの映画レビュー(感想・評価)
観る前にFacebookを始めよう
日本ではmixiやGREEなどが有名で世界中に無数にあるSNSの中で世界最大の利用者数を誇る「Facebook」。その創始者マーク・ザッカーバーグの半生を実話を元に描いた本作。アカデミー賞では大本命で賞レース前哨戦を総なめにし確実視されていたのですが、公開時期が早過ぎて印象が薄くなりかけた時期に公開された、アカデミー会員の大好物であるロイヤルファミリーを描いた「英国王のスピーチ」に主要部門を全て掻っ攫われた非常に気の毒な作品でもあります。
頭の良い人同士の会話の掛け合いというのは掛け値なしに面白味が十分あり、会話だけでも説得力と緊張感が増してきます。特に裁判物で弁護士同士の討論シーンなどはポピュラーですが、本作のはやや異質。ザッカーバーグや周りの学生とそれに群がる人々はハーバード在学生や頭の良い人ばかりなのでとにかく会話のテンポが異常に速く、それが初めから最後まで全編を通しています。会話に会話を被せていく話し方は最初こそ違和感はありますが慣れると非常にテンポが良く、観る側に与えられる情報量が多いのに割とすんなり入ってくるのはやはりフィンチャー監督の手腕とアーロン・ソーキンの脚本の良さに他ならないでしょう。このテンポと自然な話し方を追求した監督は1シーンで平均50テイク、多い時は100テイクを役者に要求したようです。鬼ですね。過去の作品も同様のスタンスなので大物俳優が怒って帰っちゃった事もある程です。話の流れもFacebookを設立して拡大していくまでとかつての仲間達との裁判の模様が断片的に折り込まれて興味が削がれない様にしているのも上手いです。
フィンチャー監督のチャレンジ精神や遊び心も面白い点の一つです。過去の作と比べほぼ無名のキャストを起用しています。実話なので実在の人物に似ている役者を起用したとの事ですが、ザッカーバーグ役のジェシー・アイゼンバーグは確かに似ていますがそれ以外の人物は似ている人と似ていない人との差が大きいです。特にナップスターの創設者ショーン・パーカーは実物はオタク丸出し野郎ですが映画ではジャスティン・ティンバーレイク・・。違い過ぎでしょ(笑)。ショーン・パーカーはアルマーニが大好きという事からティんバーレイクのクランクインはアルマーニでのオーダーメイドでの衣装合わせだったそうです。羨ましい限りで・・。脚本を手掛けたアーロン・ソーキンはザッカーバーグの態度が悪過ぎて出資を断わる社長役でカメオ出演。ウィンクルボス兄弟は双子の役者を探したが見付からなかったのでアーミー・ハマーが一人二役を演じています。不自然なエフェクトが無くかなり丁寧に作り込んでいます。これは観た後に知ったのでびっくりしました。
とはいえ、日本ではまだ根付き始めたばかりのFacebookを題材にしているので実際に利用していないとよく分からないシーンが多い事も確かです。友達との何気ない会話で思いついた「既婚」か「独身」かが分かる機能を追加する下りはまさにそういうシーンです。元々このSNSを作るきっかけになった理由が異性と出会うためとハッキリ明言しているので大切な方と一緒に鑑賞しているFacebook利用者は、自分はそういう使い方はしていない!と言いたいと思いますが言えば言うほど気まずくなるでしょう(笑)。エドゥアルドを裏切る理由は使えないからという点は分かるが唯一の友達を失うという事を考えられなかったのかという疑問が残るし、ウィンクルボス兄弟を無視し続ける理由やショーン・パーカーが捕まった後の尻すぼみ感があるので観た後に思わずインターネット検索しちゃう方も多いのでは?と思いました。
という事で、映画館で観るには情報量が多くて大画面向きとは言い難いのでレンタルで借りてきて、観る前にFacebookを利用してある程度使い方を熟知してからお友達や一人で観るのがオススメです!