「タイトルのイメージと違う映画、このキッチンの料理って一体何だろう?」ソウル・キッチン Ryuu topiann(リュウとぴあん)さんの映画レビュー(感想・評価)
タイトルのイメージと違う映画、このキッチンの料理って一体何だろう?
この映画は、私のよく行く単館系の映画館で宣伝していた。あの映画館で上映する作品ならきっと良い作品に間違いないと決め込んで、見逃してしまったので、レンタルDVDが出て早速観てみると、ハチャメチャで掴み処が無く自分にとっては、ハズレ!の1本だ。
ストーリー展開に整合性を少しも感じられない作品で、自分はこの作品約1時間40分の尺で、最近の2時間以上の作品ばかりの映画の中で、この短い映画は、忙しい日常の中で観るにはお手頃の尺の筈であるのだが、その強引な話の展開に感情移入出来ずに置いてけぼりをさせられた自分は、短尺の映画が長く辛く感じてしまったのだ。とても残念だった。
しかし、これはあくまでも私自身の個人的な感性にそぐわなかったと言うだけで、カメラワークや、話の展開のリズム感、映像表現としてのテンポなどは悪くは無いのだ。
只、主人公のジノスの兄が刑務所にいて仮出所して来て、弟の店で色々問題を引き起こす事とか、ジノスが旧友と街でばったり会ったら、こいつも彼の人生には迷惑な存在となって行くし、ジノスの恋人は上海へと旅立つし、ジノスの人生、弱りめに祟りめ、泣きっ面にハチ、踏んだり蹴ったりと、これでもか、これでもかとハプニングの連続!!!
これを、「ウッソ~!!!」と言って笑いながら、人の不幸は蜜の味と、あくまでも他人事として傍観者の立場で、楽しむには問題無く、笑って楽しめるのかも知れない。
例えば、かの寅さんも、ご本人にしては、真剣な毎日でも、いつも失恋の連続で哀しい筈の彼の人生なのに、安心して観客は笑って観てしまうのだが、この映画の場合は、何故か寅さんよろしく、ジノスに降りかかる連続災難は全く楽しめなかった。
そこで、考えると自分は、この映画の災難は、どれもシリアスな大きな問題へと発展する事柄の連続で、主人公に感情移入してしまうと返ってそれが、ジノスと同じ気持ちになってしまい、笑うに笑えないと言う事になり、返って映画に反発する気がしたのだ。
ちょっと例えが古いのだが、S・マーティン主演の「大災難」と言うタイトルの映画だったかな、感謝祭に田舎に帰省しようとしていた主人公が、次から次へとハプニングの連続が起きて感謝祭に家に辿り着けないと言うコメディーがあった。ハリウッド映画では、気の合わない2人旅のロードムービーって結構有りで、この手のコメディー映画は多いのだが、これは、日常誰でもが経験している、小さな取るに足らない様な、ハプニングが連続して起こってしまうと言う、有り得ないバカバカしさに笑いを誘う元があると思うのだ。けれど、この「ソウル・キッチン」は人物の設定とか、ハプニングが大きな問題であるのに連続的に災難が続くのだ。すれ故にストーリーの展開に無理が感じられて、余り日常的でないこの作品に入り込めない私みたいな人間が出て来たのだろうと推測する。
この映画、タイトルに騙されちゃったかな?それに、ポスターやフライヤーから、とても甘い雰囲気のするラブストーリーをイメージしてしまったのだ。
ジノスの恋人が上海に行ってしまう空港での別れのシーンを観た時、あ~ここのシーンの映像だったのか?とやっぱりこのシーンは良いから使うよなって納得した。兄を演じるモーリッツ・フトロイは「素粒子」で良い芝居を見せてくれたし、ジノスを演じたアダム・Hが脚本も執筆しているらしいし、監督も、ファティ・アキンだ。気が合えば悪くは無いのかも知れない作品だ。何しろこの作品一応2009年のベネチア国際映画祭で審査委員特別賞を受賞していると言うのだから、決して駄作と言う事では無いのかも知れない。
人を笑わせる、コメディーとは、本当に難しい事だ。笑いのツボって本当に千差万別だものね!