「バネ仕掛けのスリリング」アンストッパブル(2010) grassryuさんの映画レビュー(感想・評価)
バネ仕掛けのスリリング
ノン・CGが話題になっているようですが…。
先入観を持たず(というか情報に疎く、ろくすっぽそんなこと知らずに、単に映画として面白そうだったので)観てみました。
少しずつ少しずつ事態が悪化していっている前半、事態が収拾のつかないところまできていることに人々が気がつきだした中盤、もはやここまで危機一髪をさてどうしのぐのかデンゼル&クリス。
あわてふためく鉄道関係者始め周りの人々の風景は否が応にも緊急事態を伝えるのですが、お互いのプライベートを語り合う微妙にずれる主役の2人の時間帯が朴訥にトリガー・アクシデント的に挿入され、妙なミスマッチとともに、ことの重大さをひしひしと感じさせてくれる不思議な空間。
前フリの異質な感覚に戸惑っていると、場面はいきなり一気にスピード&ヒートアップし、以後は息もつかせてはくれません、終わってみればしっかり手に汗握らせていただきました(なんという、「ナウでダサい」締めなんでしょう、われながら)。
よく組み立てられた脚本、編集の妙、カメラワークの迫真、すべてはプロの仕業でとてつもなく高い水準で構成されているにもかかわらず、まさに裏腹の主役の2人の織りなす不思議な世界が、ノン・CGも相まって、手作り感たっぷりにたどたどしいばかりにスリルとサスペンスのタペストリー。
計算され尽くした上で、随所に遊びと余裕が埋め込まれ、観る者にうさんくささやわざとらしさを感じさせることがまったくありません。
人の手によって精妙に仕組まれた、バネ仕掛けのスリリングとでも表現しましょうか?
クリスパインが好演、とにかく若いくせに妙に抑えがきいてて、僕みたいな映画オヤジがいっちゃー申し訳ないのですが、渋い!映画としての極上のスピード感を決して邪魔せず、それでいて朴訥と、一つ一つのセリフを丁寧にそれでいてエスプリ少々きかせつつ、のすばらしいアシストぶりでした。
ここまでお膳立てされれば、アカデミー男優デンゼル真骨頂でしょう。うらぶれた、それでいて仕事に誇りと確かな技術を持つ男の武骨さを巧みに表現、これまたさすがの一言。
プロフェッショナリズムとたどたどしさとの絶妙の融合、ぜひとも映画館で映像や音響の素晴らしい迫力とともに味わっていただきたい、そんな想いにかられる作品です。