「人の成長が犬には大事、と諭される良質なファミリームービー」きな子 見習い警察犬の物語 こもねこさんの映画レビュー(感想・評価)
人の成長が犬には大事、と諭される良質なファミリームービー
犬好きの人なら、香川のずっこけ警察犬の話はよく知られている。その実話をもとにしているだけに、この作品には、最初から興味津々だった。結論から言うと、犬好き、動物好きだけでなく、犬を飼っている子どもたちには心をうつ、感動作に仕上がっている。
犬が主人公だと、どうしても犬の可愛らしさや健気さばかりを追い求めがちの作品が多くなるのだが、この映画「きな子」のいいところは、犬に特化せず、むしろ飼う側の人間の成長物語にしている点だ。
きな子は、身体が弱いまま生まれ、警察犬にはなれないと言われたのだが、警察犬訓練校に入りたての見習い訓練士・杏子の希望で、自分が育てると言ったことから、警察犬への訓練が始まる。しかし、きな子は甘ったれで集中力に欠ける性格から、なかなかうまくいかない。ただ、そのきな子の弱さは、飼い主の杏子の弱さに通じている、という演出はとても興味深かった。飼い主である人間が成長しないと、犬も成長がままならない、というのは、まるで人間の親子のようで、ペットをもつ家族がこの映画を観賞すると、いろいろ学ぶべきところも多いと思う。その意味では、今年一番のファミリー映画と言えるだろう。
ただ、全体の内容は、毒にも薬にもならない、さして強調するようなシーンやエピソードがあるわけでもないので、作品の評価としてはそれほど高くはならない。どこをどうすればよかったかと言えば、もっと香川県を強調してほしかったこと。たとえば、うどんだけでない、香川の名物、名産をもっと出してもよかっただろう。そして、訓練学校の家族たちを、小生意気な妹だけでなく、もっとフィーチャーしてもよかったと思う。たとえば、料理好きの兄の料理の腕前をもっと映像で見せるなど、わりと杏子の理解者だった訓練校の兄側の個性を際立たせる演出があれば、さらに杏子たちの個性が浮彫りにされていたような気がする。人間側をうまく描いた犬の映画だっただけに、もっと突っ込んで人間を見せる内容にしてもいい作品だったと思う。