海の金魚のレビュー・感想・評価
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脚本に難はあるが、俳優陣とエキストラが頑張っている
私はヨット乗りなので、この映画の公開を待っていました。
ヨットの描写は結構いけてます。地元のヨット関係者が総力で協力されたようで、そのおかげだと思います。海辺のシーンで、俳優陣の背景で練習をしているヨット部の人達(エキストラ)の操船が上手です。普通の映画とは逆に、エキストラで出演している人の方が圧倒的に(操船が)うまいので、それを見る楽しみがあります。
ただ、ヨットを知らない人は、なぜ主役の女子高生(ミオ・キヨミ)たちの艇がスタート直後にペナルティを科されるのか、何のためにあんなに頻繁に方向転換を繰り返すのか理解できませんから、演出や脚本にもう一工夫あってほしかったところ。また、レース中のヨットを空撮するシーンがたびたびありますが、少ない予算をそんなことに使うより、スタート直前に狭い海域にひしめき合うヨットの大集団をヨットと同じ高さのカメラで捉えたり、水しぶきをかぶりながら疾走するヨットを船上カメラで捉えた方が安上がりでしかも迫力があったと思います。
俳優陣は頑張っています。特に主役の一人であるミオ役の入来茉里は笑顔が愛らしく、爽やかな雰囲気を醸し出しています。高嶋政宏は、若手キャスト達の芝居に奥行きと安定感を与え、映画全体を引き締めています。
ヘリー・ハンセンのおそろいのウェアもいけてます。ヨットを知らない人も、「ヨットって格好いい」と思ってくれそうです。
キヨミ達のヨットも、レースでライバルになるヨットも、女性中心のチームなのが嬉しい設定。この映画を見て、「ヨットって若い女性が多いスポーツ」と勘違いしてヨットを始める人が増えてくれたら嬉しいです。
ただ、塚田耕野の脚本は問題が多すぎます。
まず、ミオの台詞に多用される格言的台詞が芝居のリズムを壊しています。一緒に見た20代女性も
「聞いてて恥ずかしい台詞」
との評価。
ミオのヨットを漁港から追い出そうとする若い漁師達が悪役として描かれます。しかし、そもそもミオのヨットは不法係留であり、善悪が逆です。
天才ヨット少女という設定のキヨミは、ヨットのパートナーを意味なく怒鳴りつけるばかりで、単なる情緒不安定な少女に見えてしまう。
キヨミがディンギーヨットでチームを組んでいたセイコを死なせてしまったシーンもおかしい。足にロープが絡まって浮き上がれないのならロープを引っ張って引き上げればよい。ディンギーが転覆しているなら起こせばよい。しかも転覆している海は、鏡のようなべた凪・・・。べた凪の海でヨットを転覆させる天才ヨット少女???そもそもで言えば、ディンギーヨットの転覆はすぐに元に戻せるし、ディンギーヨットは不沈構造だから転覆しても沈没しません。慌てる必要など全くありません。
素人寄せ集めのチームが試合で強豪をなぎ倒し、というストーリーは楽しいですが、それには猛練習とか、素人の意外な特技が競技に役に立って、という理由付けが必要です。しかしこの映画にはそれがなく、なぜあんな素人集団が勝てるのか?という疑問符がつきまといます。
もったいないのは若手漁師のリーダーでミオに協力するヨウスケの位置づけ。彼は、ヨットチームではただの素人として描かれています。しかし漁師というのは、たとえヨット素人でも海のプロです。長時間にわたるクルーザーヨットのレースに必要な天候や潮流の読みができるヨット素人がいるとすれば、漁師であるヨウスケでしょう。もしも漁師さんがこの映画を見たら、漁師をバカにするな、と怒るのではないでしょうか?
以上のように、脚本の出来がよくなくて、残念な部分がいくつか目に付きます。しかし、俳優陣のがんばりと、エキストラとして出演している地元ヨット関係者の見事な操船、そして鹿児島の美しい風景が脚本の欠点をかなり補っています。
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