スター・トレック イントゥ・ダークネス : 映画評論・批評
2013年8月20日更新
2013年8月23日よりTOHOシネマズ日劇ほかにてロードショー
勝因は悪役の設定とベネディクト・カンバーバッチの起用にあり
ヒーロー映画の魅力は悪役にある。特にシリーズの第2作では悪役が重要。第1作はヒーロー誕生を描けばよいが、第2作はその先を描かなくてはならないからだ。クリストファー・ノーランがリブート版バットマンでジョーカーを登場させたのも第2作だった。
そしてJ・J・エイブラムスも、彼がリブートした「スター・トレック」の第2作で、稀代の悪役を創り上げた。その悪役は、主人公たちが所属する宇宙艦隊の士官ジョン・ハリソン。彼は突然、宇宙艦隊のデータ基地を攻撃し、さらに艦隊の首脳陣を抹殺する。彼の目的は何なのか。
エイブラムスはこのジョン・ハリソンを、強力な敵であると同時に、ただの敵ではない特別な存在に設定した。まず、ハリソンには主人公たちを圧倒する知性と身体能力を備わっている。だが、それを誇示することはしない。過激な行動に走るが、その態度は常に冷静そのもの。そして、人間の愛情を利用して罠を仕掛けるという凶悪さを持つが、その行動には敵ですら共感を抱かざるを得ない理由がある。こうした多面性がこのキャラクターに魅力を与えている。さらにエイブラムスは、崩れ落ちる高層建築のイメージを多用しつつ、“復讐”を巡る物語を描いて、この映画が9・11の同時多発テロや、アメリカとビン・ラディンの関係を描く現代のドラマとしても読み取れることを示してみせた。
このハリソン役に、伝統的なハンサムとは異なる風貌を持つ英国の個性派俳優ベネディクト・カンバーバッチを起用したのも、本作の勝因。カンバーバッチが「SHERLOCK シャーロック」で演じた、コミュニケーション障害だが、驚異的知性を持つ天才探偵のイメージが、ジョン・ハリソンの設定と重なって相乗効果を上げている。
(平沢薫)