「原作の制約もありながらも、初期のスピルバーグらしい活劇作品で嬉しくなりました。」タンタンの冒険 ユニコーン号の秘密 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
原作の制約もありながらも、初期のスピルバーグらしい活劇作品で嬉しくなりました。
最近のスピルバーグ製作作品には、宇宙人に抵抗しても敵わないと戦う前から地球の人々を屈服させてしまう作品が多いのが気になっていました。あのETでの友好ムードはどこへ飛んでいったのでしょうか。まるであんな映画ばかり作っていたのでは、地球侵略を企む宇宙人の手先になったかような、方向転換が不満だったわけです。
そんなところに本作を見て、拍手喝采!凄く初期のスピルバーグらしい作品で嬉しくなりました。やっぱりインディ・ジョーンズ・シリーズ以来、冒険活劇映画は、スピルバーグの十八番ですね。実写でない分、さらに海へ、空へ、砂漠へ、そして街の雑踏へ、場面展開のスピード感は増しているのです。
スピルバーグ監督が本作の映画化を思い立ったのは、約30年前。自作「レイダーズ・失われたアーク」がフランスで封切られたとき、「タンタンの盗作」とやゆされたのがきっかけだったそうです。エルジェの原作に初めて目を通すと、動きのある場面運びに引き込まれ、疾走するような物語の展開に胸が躍ったといいます。
アニメだからといっても、そこはスピルバーグとピータージャクソンの作品。CGの質感がリアルなのです。
アニメーションは、実写に比べ抽象化されるのが普通ですが、ここではその常識が覆されます。鏡やガラス、水に映ったり、ガラスや水越しに見えたりする映像が、ふんだんに使われ、それがあまりに見事で美しいのです。
本来、アニメが苦手とする表現にあえて挑み、物の質感やその場の空気感、におい、温度まで、生々しく観客に伝えてきます。水しぶきや、割れたガラスの破片が飛び散るリアルさ。3Dの奥行きの中で漂う光と影。もはやアニメと呼ぶことがためらわれるような映像世界でした。
役者の演技をCGに取り込む「パフォーマンス・キャプチャー」の動きもリアルで滑らか。特筆すべきは、映像が他のCG作品と比べてとても暖かみを感させるものなのです。たぶん輪郭のエッジが柔らかく描かれているからでしょう。ポイントは「目の表現」。ここが感情を映し出すカギとなり、エルジェが二次元で描いた人物に生気を吹き込むために改良を重ねたそうです。
スピルバーグお得意のアクションにも驚かれることでしょう。タンタンを拉致した車をスノーウィが追う場面の、アニメならではのスピード感。プロペラ機が砂漠に不時着する場面のスリル。そして、タンタンたちと悪人たちが暗号の書かれた羊皮紙を奪い合って繰り広げる追跡劇が圧巻です。モロッコの架空の街全体を使って、縦横無尽のカメラワークでワンカットで描ききっています。
また要所に名画・名作のオマージュに溢れた映像が登場します。双子の刑事(似ているけれどアカの他人同士)の動きはコミカルで、チャップリンを連想させます。
また海賊船との決闘シーンでは、パイレーツ・オブ・カリビアンをイメージさせるものでした。オープニングの影絵のシーンもきっと何か意味があるに違いありません。
物語は、フリーマーケットでユニコーン号の模型を手にした少年タンタンが、次々謎の人物の襲撃を受けてしまうところから始まります。一切ユニコーン号の秘密を明かさず、タンタンが誘拐されて、カラブジャン号に連れて行かれて概要を知るまでが一気に描かれます。最初から激しいアクションありで、すぐにタンタンの冒険の世界に取り込まれるでしょう。
圧巻はユニコーン号の秘密を巡ってタンタンと争うサッカリンが、タンタンの味方となって共に戦っていたハドック船長と巨大なクレーンを使い合って対決するシーン。クレーンのスケール感がたっぷりで、迫力ある対決シーンとなりました。
但しストーリー性は、アクションの影に隠れて、やや薄い気がしました。原作の忠実な余りに少し現実離れしたシーンも気になります。特に最後のオチは、いろいろ冒険したあげくに、灯台元暮らしとは、そりゃあ~ないよ~と嘆きたくなる結末だったのです。まぁ、続編につづく終わり方なので、続きに期待するしかありません。
タンタンが新聞の連載漫画として産声を上げたのは1929年の世界恐慌の前夜。ベルギーがナチス・ドイツに占領された40年に一時中断したが、暗い時代にも欧州の人々の娯楽として読み継がれてきたのです。
スピルバーグ監督は東日本大震災に思いをめぐらせ、「自力で立ち上がろうとする日本人の勇気に胸が張り裂けそうになった」と声を詰まらせた。2人が作品に投影するのは「勇気ある冒険心」だそうです。
だとしたら、震災という悲しみから立ち上がるためにも、未来を担う子供たちに冒険へのロマンを誘う本作がお勧めですね
試写会当時も、お子さんたちが大喜び!家族連れで、特選の作品としてお勧めしておきます。2Dでも立体感がスゴイで充分でした。