「月に囚われたサムは、月から狼になって帰還を夢みて泣いているのか?」月に囚われた男 Ryuu topiann(リュウとぴあん)さんの映画レビュー(感想・評価)
月に囚われたサムは、月から狼になって帰還を夢みて泣いているのか?
カプリコン『ミッション:8ミニッツ』が好きになって、この映画を観た。
D・ジョーンズ監督デビュー作は、ピンポン・ピンポーン~!!!観て正解だった!
監督の映画を撮影するぞ!という情熱と意気込みが静かであるが、淡々と流れ出るようにスクリーンから溢れ出しているのを感じた。創り物のセットはいかにも低予算の映画らしく、おもちゃチックで、チープなのだが、その安っぽいセットの月面世界や、基地内部は、丁度この太陽系宇宙では、太陽がエネルギー源の中核を受け持つ中で、月はいつも影のような存在でも、宇宙のバランスを真っ当に淡々と果たしているその事で宇宙の秩序が確保されているのと同様に、地味で、目立たない存在で多くの観客に観てもらう機会が少なかった作品かも知れないが、低予算の映画でこそ、魅せる事が出来る、映画制作者たちの意図、監督や、俳優や・スタッフの気持ちがギュッと詰まって胸に迫り来る感動があった。
登場人物は、ほぼ一人芝居であるにも拘わらず、そこに描き出されているサムと言う人間像の心理状態の変化が細やかに描かれている事で、観客は飽きずに密室単独芝居の物語へと引き込まれて行けるのだ。
音楽も、こちらの気持ちを上手に引っ張り上げ、包み込むように、効果的に使われていた。
観ていて切ないけれど、次々と先のシーンが観たくなる楽しい画面だ!
それは綿密にサムの心を描き、変化の過程をしっかりと描く監督の映画に賭ける情熱の反映の様にも思えた。
70年代後半にイギリスとアメリカの合作映画で、『カプリコン1』と言うエリオット・グールド主演の映画があったが、これは火星探索宇宙飛行ロケットの話であるが、今日一部の人たちの間では、アポロは月面着陸を果たせなかったとする説があるのと同様に、この映画では、劇中で火星への宇宙飛行が行われているが、それは実はフィクションであるかも?と示唆する近未来SFサスペンス映画で、この『月に囚われた』に比べると、もっと政治色が濃い映画だったように記憶している。
公開当時、その内容故に、話題騒然だったためか、珍しくアメリカよりも、日本での封切り公開が先になった作品だ。レンタル店で今貸出出来るところもあるので、『クプリコン1』もこの作品と観比べて観るとより楽しめるかも知れない。その映画の監督ピーター・ハイアムズは、70年代80年代と、そこそこ話題の作品を出していたが最近は殆んど噂を聞かないのは残念だ。
今夜も、空を見上げるとそこにはいつもと変わらぬお月さまが見える。ウサギが住んでいるとはとても信じる人はいないが、もしサムとガーディと同じ様な事が起こっても不思議ではないと思える昨今、私は月を見ると、もし自分のクローンが出来たら、そのクローンは現在の自分と同様の思考回路かなと、そんな宇宙的な空想に浸る。完全に私も、この映画で、月に囚われてしまったのだろうか?