「温故知新」月に囚われた男 かみぃさんの映画レビュー(感想・評価)
温故知新
拙ブログより抜粋で。
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まあ正直なところ、こういうSFに慣れていれば、いわゆるどんでん返し的な驚きはあんまりない。
過剰にCGを頼ったりせず、ミニチュアも駆使した特撮映像や、『2001年宇宙の旅』(1968年、監督:スタンリー・キューブリック)あたりの宇宙船を彷彿とさせる古式ゆかしい美術セットに懐かしさを感じるのと同じように、お話もどこか古典のテイストを漂わせる。
一応、近未来が舞台なんだが、20世紀の人が考えた21世紀の未来像って感じなのね。
つまるところ、それらはすべて狙った上での古めかしさ。まさに温故知新。
そこにあるのは夢の未来世界なんかじゃなく、どこかダークな絶望的未来。
いや、地球上の人々の状況は描かれないので、そちらが実際にはどうなのかはわからないんだけど、主人公であるサムにとってはまったく救いのない現実が突きつけられる。
で、そういうSF的舞台装置を用意した上で描かれたのは、今日的な労働者の悲哀なんだと思う。
そんなに手の込んだ話でもないこの小品の宇宙SFが、その突飛な設定とは裏腹になんとなく身近に感じられるのは、周りが見えないまま働き続けたサムの境遇に共感するからに他あるまい。
それでいてラストは、この状況を打破するだけのカタルシスがある、好感の持てる終わり方。
こういう、単純なアイデアをじっくり煮詰めた作品に出逢うと、映画ってやっぱり製作規模だけじゃわかんないよなぁって思える良質なSF映画でした。
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